個体間距離や遊動域は,集団の凝集性を構成する重要な要素である。給餌時であっても攻撃交渉が起こりにくい寛容な社会構造を持つ淡路島ニホンザル餌付け集団(兵庫県洲本市)と専制的な社会構造を持つ勝山ニホンザル集団(岡山県)を対象に,個体間距離と遊動域の季節変化を検討した。各種の法令とガイドラインに即した方法で、GPS首輪発信器を成体メスに装着した。測位は毎日0時00分と7時00分から19時00分まで2時間ごとに行った。勝山集団では成体メス2頭に対して,淡路島集団では成体メス3頭に対して首輪を装着した。両集団の遊動域は,秋に広がり,餌場への依存が強まる冬に狭くなることが共通して確認できた。一方で、秋に遊動域が広がると,淡路島集団では個体間距離も広がる一方で,勝山集団の個体間距離は広がりにくかった。淡路島集団では、個体間距離が200mを超えることが頻繁に生じており、集団内でサブグルーピングが頻繁に生じていること,それが何日か継続すること,サブグループに分かれた個体同士であっても親和的な交渉を行えることが示唆された。これらの特徴は淡路島集団の社会的な寛容性と関連する可能性が考えられた。
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