研究課題/領域番号 |
25780393
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
向井 隆久 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 助教 (30622237)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 問題発見 / 問い生成プロセス / 文脈構成力 / 高等教育 / 大学生 / 問いの評価基準 |
研究実績の概要 |
H26年度の主要な目的は,本研究で提案している“問い生成プロセス(問い-文脈相互構成プロセス)”の妥当性の検証を,前年度までの成果を受けて,さらに推し進めることであった。 前年度は学習者の文脈構成力(逆算的文脈構成)と問い生成力との関連を検証しており,文脈構成力が高いほど,「深い問い(答え)」の出現率が高いこと,また文脈構成力は講義期間の前半期から後半期にかけて向上し,それに伴う形で,問い生成力も向上することが明らかになった。今年度は,さらに文脈構成力の高低によって,他者が授業中に生成した問い・答えを観察評価する視点がどのように異なるのかについても検討を加えた。 その結果,文脈構成力が低い者は,問いの表面的な内容について評価する(「共感できた」「わかりやすい」等)傾向が高いのに対して,文脈構成力が高い者は,問いを生成する際の思考過程に着目して評価する(「あえて逆の側面から捉えしている」等)傾向が相対的に高く,自力で問いの考え方について情報を収集できていることが示された。さらに文脈構成力中群は,思考過程に着目して問いを評価するが,「深い問い」の生成率は向上しないのに対して,文脈構成力高群は,思考過程に着目して問いを評価すると同時に「深い問い」の生成率も向上することが示された。 これらの結果から,文脈構成力がある程度高い者は,他者の問いを観察することで,考え方の情報を収集できる可能性が高まるが,それらの情報を実際に自身が問いを生成する際に活かすには,文脈構成力がさらに十分に高まっていることが重要であることが示唆された。これらの研究成果は公表に向けて,現在,論文執筆中である。その他,生成された問いの希少性(独創性)について,数式によって定義を行い,より客観的な指標での測定も試みている。これらの結果の一部については,日本教育心理学会第56回総会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで研究から,本研究で提案していた“問い生成プロセス(問い-文脈相互構成プロセス)”の妥当性が概ね支持されており,大学生が授業における学びの中で問題発見するために文脈構成力(逆算的文脈構成)が重要であることが分かってきた。また問いをより客観的に評価するために購入予定であった言語データ解析ソフト(JustSystem MiningAssistant/R.2)は高額のため購入を断念したが,他領域(数学,言語学,プログラミング関連など)の専門家に協力を仰ぎ,独自に問いの希少性(独創性)を測定するシステムを開発中であり,現在はまだ部分的ではあるが,分析も進行中である。 さらに昨年度,問い生成の思考過程をアンケート,インタビューで明らかにすることが困難であることが分かったため,H26年度は学生が問いを生成した直後に,思考過程を振り返って記述してもらうことによりデータを収集できている。これは言語データであるため,分析に時間がかかるが,今後はアンケートやインタビューデータよりも詳しく思考過程について検討していける可能性が高い。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究で,大学の授業における学生の問題発見(問い生成)と文脈構成力(逆算的文脈構成)の間に重要な関連があることが分かってきたため,次の段階では,文脈構成力に操作を加える(向上させる)こと可能なのか,文脈構成力を問い生成の質は向上するのかといった点を検討していくことが重要になる。この点については,当初の研究計画にはなく,すぐに検証することは難しいかもしれないが,現在文脈構成力を高めるためのeラーニングを用いた訓練課題を作成しており,この課題を行った学生が,訓練されていないこれまでの学生よりも問い生成力が高まるのかを検証しようとしている。今後は教授法開発に向け,そうした検証も進めて行く予定である。 また問いを生成する際の思考過程についても,問い生成者自身が思考過程を振り返って記述したデータが収集されているため,それを基に「問いを考える際に,何に注目しているのか」「文脈構成力の高低で,思考過程にどのような違いがあるのか」「思考過程は,時間経過にともなって(学期の前半から後半にかけて)どのように変化するのか(あるいは変化しないのか)」などを検討していく。 さらに,問いの希少性(独創性)について,数式定義による客観的な測定による分析も行い,文脈構成力との関連や,時間経過に伴う変化,授業単元(学習内容)の違いによって問いの独創性は変化するのかなどについても検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成25年度から26年度にかけて,問い生成力と文脈構成力の関係性を検証する際,問いの評価側面(詳しさ・多少せい,希少性,深さ)の内,特に希少性は形態素解析に基づく専用の分析ツール(JustSystem MiningAssistant/R.2)を用いる予定であったが,分析ツールが高額のため(約60万円),予算の都合上,購入できなかった。そのため計画を変更し,希少性を算出するプログラムをエクセルで作成しながら,手作業で分析を進めているため,未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の希少性(独創性)の分析は,自作のプログラムと手作業を併用して行い,予定より大幅に時間と労力を要することとなったため,分析効率を上げるため分析協力者を雇用する経費に充てる。また希少性を算出するプログラム(計算式等含む)の作成に,専門家(数学など)の助けも必要になるため,その経費にも充てる。さらに分析結果を学会で発表したり,論文などで公表する経費とする。
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