研究実績の概要 |
乳幼児の指さしの頻度が,後の言語発達を予測するとする研究と,予測しないとする研究とが存在する。本研究では,なぜ,このような矛盾した結果が得られているのか,その理由について解明するとともに,乳幼児の指さしに付随する様々な性質のうち,後の言語発達を予測できる確度の高いと考えられるものを測定し,その性質と言語発達との関連性を検討することを目的とした。 本研究の実施期間中に,言語発達を予測できる確度の高い指さしの性質を見出すことはできなかった。ただ,本研究によって,これまでの行われてきた研究において,乳幼児の指さしが言語発達を予測できる場合と予測できない場合とがある理由の1つとして,乳幼児による指さしの産出が,各家庭の状況によって異なっており,乳幼児の指さしの頻度を正確に計測できないためである可能性が示唆された。具体的には,乳幼児に年齢の近い年上のきょうだいがいる場合,家庭内で母親と乳幼児とが遊ぶ際には年齢の近い年上のきょうだいがそばにいるため,乳幼児は母親から応答を引き出せる状況下で慎重に指さしを産出する。これが,一人っ子家庭で乳幼児と母親とが相互作用する場合と比較して指さしの頻度を小さくしていた(Kishimoto, in press)。この結果は,例えば指さしの頻度を母親に対してアンケート調査などで尋ね,後の言語発達などの認知発達との関連性を検討してきた従来の研究において,特に年上のきょうだいのいる乳幼児の指さし頻度を過小評価していた可能性を示唆している。 これまで,乳幼児の指さしの頻度の小ささが,言語発達の遅れだけでなく,発達障害の予兆として利用できる可能性が指摘されてきた。本研究は,乳幼児の指さしの小ささが,乳幼児の置かれている家庭の状況によっても左右されることを示しており,乳幼児の指さしの能力を正確に計測する手法の必要性を明らかにできた点で意義があると考えられる。
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