今年度は,予習が協同的な学習活動に与える影響および学習者内の情報処理プロセスの解明のため,3つの調査を行った。まず,予習が協同的学習に及ぼす影響に関して,高校2年生を対象として,予習方略と授業中の受容学習場面,協同的学習場面双方での取り組みの関連の検討を行った。その結果,教科書を読んでおくなど,授業内容に関する知識を事前に得ておくことで,授業では,受容学習での精緻化方略(重要な情報はメモする等)だけでなく,協同的学習での深い処理方略(相手の理解度をチェックする等)の使用が促進されることが示された。 しかし,上記の調査では,活動中の学習者の情報処理プロセスや実際の発話については検討できていないため,7月から10月にかけて実施した調査では,大学生に予習を行わせた上で「説明役」と「聞き手」に分かれた教えあい活動に取り組んでもらい,活動後に質問紙を実施して活動中のモニタリングについて測定を行った。また,ICレコーダーで発話を記録し,両者の関連について検討を行った結果,「他者の理解モニタリング」の得点が高い教え手ほど,教材にあるデータを単に読み上げる説明を行わないこと,また,「他者の理解モニタリング」の得点が高い聞き手ほど,「補足説明」に該当する発話を行っていることが示され,協同場面における他者の理解モニタリングの重要性が明らかとなった。 さらにその後の調査では,予習を踏まえた協同的な学習を行う際に,動機づけや他者との関係性などの要因も考慮して,活動中のモニタリングや発話との関連について検討した。その結果,学習内容に対する効力感の高い学習者ほど他者の理解モニタリングを行っており,活動中に「問題点の指摘」や「説明の要請」,「内容の確認」といった発話を行っていることが示された。また,「自他の理解の差異のモニタリング」が,活動中の「問題点の指摘」と関連していることも示された。
|