平成27年度は主に以下に示す3つの研究活動を行った。(1)日本社会心理学会と日本グループ・ダイナミックス学会において,前年度までに行った集団実験の結果について発表した。報告内容は次の2つである。ひとつは,所属欲求が強い個人において被排斥者への共感による心理的痛みの伝染が生じることである。もうひとつは,emotion sharingによる共感を示す個人において同様の伝染過程が生じるのに対して,mentalizingによる共感を示す個人においてはこの過程が生じないことである。 (2)(1)の知見,ならびに前年度までに報告した知見の再現可能性について検討するために,2つの集団実験を行った。その結果,上述したemotion sharingに関する知見,そして昨年度報告した社会経済的地位が低い個人ほど被排斥者への共感の正確性が高いという知見は再現されなかった。しかし,新たな知見として,社会経済的地位と共感の正確性の関係を,共感のタイプ(emotion sharing/mentalizing)や対象(被受容者/被排斥者)の違いが調整することが示された。 (3)平成26年度の日本グループ・ダイナミックス学会で報告した知見について,国際誌に投稿し,受理された。平成28年度中に発刊される予定である。さらに,(1)で述べた所属欲求に着目した知見について国際誌に投稿している段階である。 平成27年度は本申請課題の最終年度であった。当初の予定とは一部異なる研究計画を採用することになったものの,いずれの研究も国際・国内学会で発表できる,さらに国際誌において刊行されるところまで到達できた。その点において,申請者は本申請課題を通して十分な成果が得られたと考えている。
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