研究概要 |
ストレスへの対処や問題解決に密接に関係し、うつ症状の遷延化を引き起こす可能性が示唆されている大うつ病性障害(MDD)患者の認知機能障害の自殺念慮との関連を調査した。現在通院加療中のMDD患者(44.9±11.9歳、教育年数12.8±9.9年)に対し①BDI-II、②BACS-J、③JARTを行い、推定病前IQが正常域の50名に関してBACS-Jの6項目のZスコアとBDI-IIの自殺念慮の有無の関連性をt検定で検討した。その結果BACS-Jの言語記憶、ワーキングメモリ、処理速度、注意と情報処理、言語流暢性、遂行機能いずれの項目とも自殺念慮との関連は認められなかった。今回の検討からはMDD患者の認知機能評価は自殺関連行動を予測するツールとしては弱い可能性が示唆された。 また、自殺念慮と相関のある人格検査の項目を抽出する事を試みた。精神障害を有する患者に自殺のリスクが疑われても直接的に尋ねる事は時に侵襲的になる場合があるため、人格検査のような心的負担の少ない評価尺度から自殺のリスクを推測する必要もあると考えられる。大うつ病性障害と診断された患者47名に対し初診時に240項目からなる人格検査であるTCIおよびBDI-IIを施行し、人格および抑うつ症状を評価した。次にSpearmanの順位相関係数を用いてBDI-IIの自殺念慮の有無を評価する項目と相関のあるTCIの項目の抽出を試みた。その結果、設問6,9,10,15,16,22,29,58,70,88,99,104,113,114,121,122、126,138,151,175,193,196,197,221,236の25項目が自殺念慮の有無と相関する事が判明した。特に設問10,70,113,138,151,221の6項目は相関係数が±0.40以上と強い相関を示し、人格検査からでも自殺念慮の有無を推測できる可能性が示唆された。
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