初年度は自殺関連行動と高い関連を示す因子の抽出を目的とした。①通院加療中の大うつ病性障害(MDD)患者に対してBACS-J、BDI-IIを行い認知機能と自殺念慮との関連を調べた結果、いずれの項目にも有意な関係は認められなかった。一方②MDD患者に対し初診時に実施したTCI人格検査からBDI-IIの自殺念慮の有無を評価する項目と相関のある項目の抽出を試みた結果、TCIの25項目が自殺念慮の有無と相関し、特に設問10、70、113、138、151、221の6項目は相関係数が±0.40以上と強い相関を示した。 2年目は弘前大学の医学部5年生を対象に、ATTSで評価した自殺への態度、およびPBIで評価した親子の結びつきや親の養育態度と自殺への態度との関連性を調べた結果、母の養護因子と自殺への権利との間に有意な関連性を認め、医療従事者自身の親子の結びつきが自殺への態度に影響を与えることが分かった。 最終年度は初年度に抽出されたTCIの6項目の回答が自殺念慮の有無により有意に偏るかFisherの直接法を用いて検討した。その結果いずれの設問でも有意な回答の偏りが見られたため、6項目の合計得点を元にROC曲線を作成したところAUCが0.864と大きく良好なスクリーニング効率を示した。この組合せの最適カットオフ点は3点で、この場合の感度は83.3%、特異度は25.0%と良好な水準を示した。 本研究期間で自殺リスクの可能性をより侵襲性低く患者から聴取する有意義な因子の一部を抽出し、自殺念慮を有する患者を良好に鑑別するはTCIの6項目の組合せと最適なカットオフ値を探索した。また自殺予防の重要な因子である医療従事者の”自殺への態度”が養育環境と関連していることを明らかにし、自殺のゲートキーパーとして教育を行う際には教育内容を個別化する必要性を示唆することができた。
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