本課題は,Beck(1976)の抑うつ認知理論において,抑うつに直接影響を与えるとされる自動思考,すなわち「ネガティブな状況で不随意的に生起する思考」とされる否定的自動思考を測定する本邦独自の尺度の作成を目的とするものである。 最終年度である27年度は,前年度までに収集・整理された項目を基に,日本人にとって再生しやすい否定的自動思考の生起傾向について,期間を限定しない方式で測定する尺度(Negative Automatic Thoughts List;NAL)を作成した。その結果,NALは「否定的感情表現」,「自信喪失」,「他者非難」,「後悔と恥」の4因子,全38項目からなる,内的整合性の高い尺度であることが示された。また,NALの全下位尺度は抑うつと正の相関を示したが,その後の分析によって,特に「否定的感情表現」および「自信喪失」が,抑うつとの関係が深いことが示された。続いて,4週間の期間をあけた縦断調査を実施した。その結果,NALによって測定された否定的自動思考の頻度が将来の抑うつへ与える明確な影響は示されず,今後の課題となった。
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