研究課題/領域番号 |
25780411
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研究機関 | 京都文教大学 |
研究代表者 |
長谷川 千紘 京都文教大学, 臨床心理学部, 講師 (20624224)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 心理アセスメント / 心身症 / 身体疾患 / バウムテスト |
研究実績の概要 |
身体に病を抱える心身症・身体疾患の心理療法においては,神経症よりいっそう深い次元で心身の関連を捉えていく必要がある。本研究は,代表的な内分泌・代謝系疾患でありながら古くから精神症状を伴う事例の報告される甲状腺疾患を対象とし,3種の心理査定(質問紙法・バウムテスト・半構造化面接)から彼らの心理的特徴を明らかにすることで,甲状腺疾患における心理社会的ケアのあり方を探ろうとするものである。 平成25年度は,神経症群・一般群との比較から,甲状腺疾患の心理的特徴について相対的に把握することを試みた。平成26年度は,甲状腺疾患における心と身体の関連を実証的に検討することを目的に,手術予定のバセドウ病と乳頭癌患者に研究協力依頼を行い,身体治療の過程で心理指標にどのような変化が見られるのかについて手術前後に実施した心理査定の分析を行った。 手術患者は外来患者よりも投薬治療の奏功しにくい難治群と考えられるが,バウムテストにおける形態指標の分析では,手術群(バセドウ病・乳頭癌)の描くバウムは,初診群(バセドウ病・良性甲状腺腫瘍)よりも自我境界の強さなど安定した形態を示した。「治療」という枠組みに入ることで,一定の心理的安定を得る可能性が推測された。 手術群(バセドウ病・乳頭癌)において,手術前後のバウムテストを比較した結果,バセドウ病では手術後に自我境界・統合性の指標ともに不安定になり,乳頭癌ではほぼ変化が見られなかった。心身症水準と考えられるバセドウ病では,決定的な身体変容とともに心理的な変容も生じつつあり,いったん心理的に不安定になる可能性がある。半構造化面接では,手術を契機にこれまでの自らのあり方を振り返り,悩み始める者も見られ,心身の同期的変化がうかがわれた。身体疾患水準の乳頭癌では,手術は身体のことに留まり,そこから自らを振り返るような心理的動きは起こりにくいようだった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的として,「①心理検査から甲状腺疾患の心理的特徴を明らかにする」,および「②身体治療と心理指標の関連を検討する」,という2つを挙げている。平成25年度は①を遂行し論文としての公刊まで行った。本年度は②のうち,継続調査とバウムテストのデータ分析を行った。その点ではおおむね順調に進展しているが,研究成果の発表が次年度の課題として残された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,研究目標「②身体治療と心理指標の関連の検討」を進めるなかで,調査の継続とバウムテストのデータ分析に取り組んだ。今後は,半構造化面接のデータ分析の実施と,論文として研究成果の公表を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究代表者自身が主に調査・分析を行ったこともあって,人件費・謝金の支出が予定を大幅に下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
質問紙および半構造化面接の分析,および英語論文の校正において,人件費・謝金を使用する予定である。 さらなるデータ分析のために,物品費としてPCと統計用ソフトの購入を予定している。 また,研究成果公開のためにその他支出(印刷費)を予定している。
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