研究課題
若手研究(B)
本研究課題は、感情障害の一つの特徴である情動制御機能のメカニズムと関連した脳内機序を明らかにするとともに、脳情報に基づく診断や治療反応予測を目的としている。これまでの研究実績は以下の通りである。1.情動制御機能を検討するための基礎的検討情動制御の脳内メカニズムを検討するために、実験課題の基礎検討のためにイメージしやすい刺激とイメージしにくい刺激を処理した時の脳活動の検討を行った。イメージしやすい刺激に対しては左中前頭前野の賦活の増大がみられ、この活動は頭頂葉との機能的結合性を形成していた。情動制御においてもイメージによって情動制御を行うが、そのプロセスに左中前頭前野と頭頂葉のネットワークが関与していることが示唆された。2.脳情報に基づく治療反応予測法の基礎的検討うつ病患者の情動刺激に対する脳の反応性を検討した。情動語の記憶課題遂行時の脳活動をMRIで測定し、左海馬の活動が見られた。さらに薬物療法による治療効果はポジティブな情動語の記憶時の左海馬の活動と相関していた。このことから海馬の脳活動が治療反応に重要な脳情報であることが示された。また、心理療法の治療反応予測については、機械学習を用いた解析によって、情動語の自己関連付け時の脳全体の活動から心理療法の一つである認知行動療法の治療反応予測を試みた。結果としては、脳全体の情報からは認知行動療法の治療反応予測の精度は60-70%程度にしか至らなった。今後機械学習のアルゴリズムの検討や機械学習に投入するデータの選別を行う必要があると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
現在までに行われた基礎検討は、脳機能画像研究中心に徐々に進んでいる。また、脳情報に基づく治療反応予測についても予備的な試みを行いつつあり、研究手法の基礎部分については開発が進んでいる。これらの知見は論文として発表しているものあり一定の成果が得られていると考える。一方で情動制御機能に関する心理学的な基礎検討は、研究機材の問題もあって進捗が遅れている側面もある。また連携研究機関での臨床例の研究参加者のリクルートを行う体制も構築中であり、次年度以降も継続して研究体制の構築が必要であると考える。
次年度以降も研究計画に沿って研究実施を行う予定である。平成25年度は基礎検討を行い、実験課題の開発や調整を行ってきた。平成26年度も基礎検討は継続するものの、徐々に患者を対象とした脳機能画像研究を進めていく。得られた成果は随時論文化し、国際学術誌に発表する。しかし、患者を対象とした研究であるため、研究参加のリクルートに遅延が生じる可能性もある。この問題については連携研究機関と調整をはかるとともに、遅延が生じた場合には研究計画の変更を随時行っていく。具体的には、より簡易な実験課題に変更することやfMRIの測定を除外するといったことにより研究参加者の負担を減らすことを考慮する。さらに、当初の計画ではうつ病や不安障害を対象としていたが、研究の幅を広げて身体的な問題と関連した情動制御機能障害の心理生理学的メカニズムの検討を行う。具体的には慢性疼痛を持つ患者を対象とした研究を行う。慢性疼痛のメカニズムには生理学的な要素と心理学的な要素が混在して生じているが,一つの説明モデルは疼痛の制御機能の障害である。この点では情動制御機能に障害があると考えられている感情障害との共通点が見られる。そこで、慢性疼痛の患者を連携研究機関でリクルートし、平行して研究を進めていくこととする。
次年度使用額が生じた理由は、今年度に購入予定であった実験用器材が不要であることが明らかになったことと、予定よりも研究参加者のリクルートが遅延したことによるものである。次年度には研究遂行にあたりさらに必要な解析用のPCの追加購入や遅延した研究参加者のリクルート分に用いる予定である。
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