研究課題
本研究課題は、感情障害の一つの特徴である情動制御機能のメカニズムと関連した脳内機序を明らかにするとともに、脳情報に基づく診断や治療反応予測を目的としている。平成26年度の研究実績は以下の通りである。1.情動制御機能のメカニズムと関連した脳内機序:情動制御の脳内メカニズムを明らかにするために、予期不安に対する情動の制御に関わる脳活動の検討を行った。情動制御には前頭前野の幅広い領域が関与しており、特に眼窩前頭前野が重要な役割を果たしていることが示唆された。また、情動制御は恐怖や不安などのネガティブ情動の中枢と考えられている扁桃体の賦活を抑制することも明らかになった。また、情動制御機能を活用した心理的介入の検討のために、社交不安症状を持つ大学生に対してスピーチを行わせ、その時の心理的変化と生理的指標の変化を分析した。その結果、社交不安のサブタイプごとにスピーチによる心理的変化には異なる特徴が現れることが明らかになった。2.うつ病の脳機能・脳構造の異常の検討:難治性うつ病患者の脳構造体積の検討を行った。難知性うつ病患者では、前帯状回を中心として健常者よりも灰白質体積の減少があることが明らかになった。また、抑うつの心理的要因として知られる反芻は、上側頭回の灰白質体積と有意な正の相関が見られることが明らかになった。3.慢性疼痛の脳内メカニズムの検討:情動によって増幅される疼痛の神経基盤の解明のため、安静時における慢性疼痛患者の脳活動の機能的異常について健常者との比較検討を行った。主に中心前回において健常者と比較して有意な領域均一的賦活が見られた。
2: おおむね順調に進展している
継続して基礎検討を行っており、脳機能画像研究の知見だけでなく、心理学的検討も進んでいる。脳情報に基づく治療反応予測については、今後基礎検討として機械学習による診断的分類を試みる予定である。現状では、臨床例の研究参加者募集についてはうつ病患者を中心に行っており、データが集積しつつある。一方で、その他の感情障害の臨床例については研究参加者の募集が困難であることが明らかになったため、今後の方針については、当初の計画から多少の軌道修正が必要と考えている。
次年度は脳情報に基づくうつ病の診断分類と認知行動療法の治療反応予測について検討を行う。並行して基礎的な検討を継続し、行動実験を多く行う。基礎的な検討は、将来の脳機能画像研究につなげることで、より診断分類や治療反応予測に寄与する脳機能の情報を得られるように工夫を重ねる予定である。また、社交不安などの不安症の心理的特徴の解明と、慢性疼痛に関わる情動制御障害の脳機能異常についても検討を進めていく。
本来は研究協力者に対する謝金として使用する予定であったが、無償にて研究参加者を募集することが何件か可能となったため、次年度使用額が生じた。
引き続いて研究協力者が必要とされる研究を行うため、研究協力者への謝金として使用し、謝金として使用できなかった場合は旅費または英文校閲手数料として使用する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件)
不安症研究
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Neuroscience Letters
巻: 221 ページ: 246-248
doi:10.1016/j.neulet.2014.08.027
Journal of Affective Disorders
巻: 168 ページ: 229-235
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PloS one
巻: 9 ページ: e102836
DOI: 10.1371/journal.pone.0102836