研究課題
本研究課題は、感情障害の一つの特徴である情動制御機能のメカニズムと関連した脳内機序を明らかにするとともに、脳情報に基づく診断や治療反応予測を目的としている。平成27年度の研究実績は以下の通りである。1.社交不安における情動制御に関わる神経ネットワークの解明のために、社交不安者の排斥場面における情緒的サポートに関わる神経活動の異常について検討を行った。今回は、キャッチボール課題遂行中にfMRIを実施し、さらに排斥後の情緒的サポートによって情動制御機能の駆動に社交不安特有の神経ネットワークの賦活が見られるかを検討した。排斥によって前帯状回皮質の活動増大が見られ、情緒的サポートによる背外側前頭前野の賦活の程度は社交不安が高いものほど高いことが明らかになった。2.脳情報に基づくうつ病の多面的診断方法の開発のため、多変量データからうつ病の教示あり学習と教師なし学習による鑑別を試みた。教師あり学習では、L1正則化ロジスティック回帰分析(LASSO)を用いて、言語流暢性課題遂行時のうつ病患者の脳画像データから診断的識別を試みた。LASSOによる識別は他のアルゴリズムと比べて高い精度のうつ病患者の識別を可能にした。教師なし学習では、新たなco-cluster構造を推定するためのマルチクラスター分析の手法を開発した。この方法をうつ病患者の臨床指標およびMRIのデータセットに適用し、健常者とは異なる特徴的なクラスター構造を検出することができた。3.慢性疼痛に対する情動制御機能の改善を含めた認知行動療法の効果研究を行った。慢性疼痛患者に対して認知行動療法を行い、待機時、介入前後、12ヶ月後のタイムポイントで症状の評価を行った。疼痛症状、うつ症状、社会的機能は、待機時と比較して介入前後から12ヶ月後まで改善が見られた。これにより、慢性疼痛に対する認知行動療法に一定の効果が認められることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
主要な目的のうち、感情障害の維持増悪に関わる情動制御の異常の神経科学的メカニズムの一端は研究を進めることができた。また、脳情報に基づく新たな感情障害の診断方法の開発については、その端緒となる基礎検討が行われ、今後の診断方法の開発において重要なエビデンスを示すことができた。以上の理由から、本研究課題は順調に進展していると考えているが、目的の一つであった脳情報に基づく治療反応予測については、未だ進んでいない。これは治療反応予測を行うための特徴量が限定できていないことが理由であり、今後の課題となっている。
平成28年度は本研究課題の最終年度にあたるため、当初の目的を十分に達成するため脳情報に基づく治療反応予測に取り組む。また、治療反応予測を可能とする脳情報の基礎的な検討も必要である。
本来、国際学会への旅費や研究協力者への謝金などを支出する予定であったが、大学業務との重複によりキャンセルとなったものがあり、一部の研究協力者が謝金の受け取りを拒否したため、次年度使用額が発生した。
最終年度においては、研究成果の発表のための旅費や本研究課題の将来的発展を見込んだ研究の実施、研究遂行に必要なソフトウェアの購入に使用する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
PloS one
巻: 10 ページ: 0123524
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0123524
巻: 10 ページ: 0127426
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0127426
Psychiatry and Clinical Neurosciences
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arXiv preprint
巻: 1510 ページ: 06138