本研究の目的は、軽度認知症と病名告知を受けた患者が精神的安定を保つために重要な要因を明らかにすることである。 研究最終年度の本年度は1、追跡調査の実施、2、調査の解析を行った。 1、追跡調査の実施:初回調査は13組26名から協力を得られたが、転院により初回調査から半年後の第2回調査では12組24名、さらに、初回調査の1年後の第3回調査は11組23名から協力を得られることとなった。各回の調査では患者に対して物忘れの自覚や対処(コーピング)、抑うつ気分などについて、家族に対して患者の様子や変化についてインタビュー調査及び質問紙調査を行った。 2、調査の解析:第一の解析として、抑うつ傾向が認められない患者と抑うつ傾向の患者の発話データをテキストマイニングの手法を用いて比較した。その結果、両者とも物忘れには主として書くことで対処していたが、抑うつ傾向が認められない患者は家族との情報共有を前提とした記録媒体に記載をしていた一方、抑うつ傾向の患者は患者本人が管理を行う記録媒体に記載をしていることが明らかになった。第2の解析として、上述の抑うつ傾向の患者の中で追跡調査において抑うつが軽減した患者が3名認められたため、彼らの物忘れへの対処の変化を検討した。その結果、考え方を変える、家族に頼るなど物忘れへの対処方法が変化していることが明らかになった。これらの結果から、患者の物忘れへの対処の在り方が精神的安定に関係していることが示唆された。 さらに、昨年度の分析で得た抑うつの軽減プロセスについて対象者を増やしてモデルの精緻化を図った。主な結果として、抑うつの軽減プロセスには、患者と家族の相互作用が認められ、自己の能力低下に直面し抑うつ気分を呈する患者の様子を家族が受け止めることで患者と家族のプロセスが進んでゆき、抑うつ気分の軽減に有効と言われる活動の実施に至ると考えられた。
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