H26年度の成果 (1)抑うつの要因とされる2つの認知特性(他者からの評価や達成結果を過度に重視する「抑うつスキーマ」と,ネガティブな出来事の原因や将来の結果を悲観的に推論しやすい「ネガティブな認知スタイル」)が,「ネガティブな出来事の少ない」時に積極的な行動を高めることで適応的な状態を導くという仮説を,縦断調査により検討した。対人・達成領域それぞれについて検討を行った結果,ネガティブな出来事が少ない時も多い時も,1)対人領域の抑うつスキーマの高い者が良好な人間関係をもつこと,2)達成領域の抑うつスキーマの高い者は良好な達成結果を経験しやすいこと,3)達成領域のネガティブな認知スタイルの高い者は良好な達成結果を経験しにくいことが示された。1)の関係には「親和的対人行動」が,2)の関係には「積極的学習行動」がそれぞれ関わっていることも示された。(2)上記2つの認知特性が環境適応の必要性から形成された可能性を検証するため,「承認欲求と達成動機→認知特性」という仮説を縦断調査により検討した。その結果,「認められたい」「成功したい」という強い欲求が抑うつスキーマを高めていることが示された。(3)昨年度の成果を2つの学会で発表し,上記(1)の一部を学会誌に投稿した。
期間全体の成果 抑うつスキーマには対人・学業場面でのポジティブな結果を導く適応的な働きがあることが示された。このようにポジティブな働きがあるために、第三者からすると「非適応的」とされる抑うつスキーマを当該個人が持ち続けるのではないかと推察される。そして,この抑うつスキーマは承認や成功を得る必要性があって形成されたのではないかと示唆される。このように本研究は,抑うつスキーマの非適応的側面に専ら着目してきた従来の研究とは異なる知見を提供しており,その適応的機能の解明と形成プロセスの理解に寄与するものである。
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