最終年度となる本年度は、引き続き、成人期のADHDに対して認知行動療法を実施する介入研究を実施した。また成人期のADHDに対する認知行動療法については、海外では介入研究増えてきてはいるが、理論的根拠をさらに積み上げる必要がある。そのため、スクリーニング時に成人期のADHDに関する質問紙調査を実施し、治療メカニズムの精緻化を図った。 成人期のADHDに対する認知行動療法の介入研究では、スクリーニングを通過した研究協力者に対して全6回、1回60分の個人式の認知行動療法を実施した。なお、これらの研究協力者はADHDへの治療薬を未服薬であることを確認している。その結果、日常生活上の工夫である補償方略を習得することによって、ADHD症状、気分状態、生活支障度が待機統制群と比較して改善した。またその効果は、研究終了3カ月後にも維持された。 また質問紙調査では、成人ではADHD症状が高いほど日常生活の困難度が高くなることに加えて、感情調節困難(感情の自覚、感情の受容、ネガティブな感情が生起した際に衝動的な行動を抑えて目標志向的に行動する、状況に応じて感情調整方略を用いる)も日常生活の困難度を高くすることを示した。つまり、これまで示されてきた補償方略の獲得だけでなく、感情調節困難の改善も含めた治療構成要素として取り扱うことで、より日常生活を過ごしやすくできる可能性がある。 ADHDなどの神経発達症は、成人となっても完治するわけではない。したがって、今後も日常生活の改善を目標とした介入研究や治療メカニズムを洗練させることを継続する必要がある。そのため、介入研究の継続、あるいは個人式の心理療法よりも費用対効果に優れた集団療法の介入研究などの発展が望まれる。
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