平成27年度は3つの実験を行った。 (1)社交不安とワーキングメモリ容量(Working Memory Capacity: WMC)の関係を調べるために,社交不安の高低群を対象とし,スピーチ課題による状態不安を喚起した上で2-back課題を行った。社交不安の高低群で2-back課題の成績を比較するためにt検定を行ったところ,有意差はみられなかった。一方,スピーチ前の状態不安を共変量とした共分散分析を行ったところ,社交不安高群は低群よりもWMCが低かった。すなわち,社交不安高群は状態不安が喚起されていない時にはWMCが小さいが,状態不安が喚起されることによってWMCが増大する傾向にあることがわかった。 (2)向社会的意識を持つことが対人交流場面の感情に及ぼす効果を調べるために,社交不安の高い大学生をグループに分けて,グループディスカッション(group discussion: GD)を行った。その際,「グループのほかのメンバーにとって居心地がいいようにする」,「他のメンバーに配慮しながら,グループの成果に貢献できるように振る舞う」という向社会的意識をもってディスカッションに臨んだ者は,PANASで測定されたポジティブ感情が高まることがわかった。 (3)筆記開示が対人交流場面の感情に及ぼす影響を調べるために,社交不安が強い大学生を対象に対人交流場面としてGDを行った。GDを行う前の不安な感情や思考を与えられた質問に回答する形で書く構造化開示群,自由に書く自由開示群,GDとは関係ないことを書く統制群を設けた。実験の結果,構造化開示群では筆記前から筆記後にかけてPOMS2の活気-活力得点が有意に高まるとともに,緊張-不安得点が減少した。これらの結果は,将来の懸念事項に対する構造化開示の効果を実証的に示しており,構造化開示という比較的簡便な方法が感情制御の方法として有用であると考えられる。
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