研究実績の概要 |
本研究の目的は,懐かしさ感情を用いた回想法の開発のための基礎的研究として,懐かしさ感情の特性と機能,さらに精神的健康との関連を明らかにすることである。 平成28年度は懐かしい記憶の想起が精神的健康および感情に与える影響を検討するために調査を行った。調査は20歳から79歳までの150名を対象に行い,年齢により青年期群75名(M=25.8, SD=2.7),高齢期群75名(M=68.7, SD=3.4)に群わけした。各群の参加者は懐かしい記憶を想起する条件と日常的な記憶を想起する条件にランダムに振り分け,さらに懐かしい記憶を想起する条件では,記憶想起後の懐かしさの程度から懐かしさ強条件と懐かしさ弱条件に振り分けられた。参加者は各条件の自伝的記憶(懐かしい記憶想起条件:過去の最も懐かしい出来事,日常記憶想起条件:過去1週間で体験した出来事)を想起した後,想起後の懐かしさの程度,ポジティブ感情,ネガティブ感情および人生満足度に関する質問紙に回答した。 懐かしさ感情が精神的健康とポジティブ感情,ネガティブ感情に及ぼす影響を検討した結果,青年期群と高齢期群の両群で,懐かしさ強条件の参加者は,他の2条件の参加者に比べ,精神的健康とポジティブ感情が高いことが明らかとなった。一方で,想起条件によるネガティブ感情の差は認められなかった。また,懐かしさ強条件において,高齢期群は青年期群よりも精神的健康が高かった。 以上のことから,懐かしさは精神的健康やポジティブ感情の促進に影響しており,その効果は高齢期でより強くなることが示唆された。これらの結果は,回想法の実施の際に,懐かしさ感情を利用することで回想法の効果を高めることが期待できるものであった。
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