本研究の目的は,知的能力に応じた抑うつ低減プログラムを開発することであった。 平成28年度は,(1)大学生を対象とした自己複雑性に関する抑うつ低減プログラムの開発と効果の検討,(2)うつ病患者を対象とした自己複雑性に関する抑うつ低減プログラムの開発と効果の検討,の2つを行った。 (1)大学生への効果検証:大学生16名を対象に,知能検査の作動記憶および処理速度の群指数が90点以上の9名を介入群1(5名)と統制群1(4名)に分類し,介入群1には自己複雑性を高めるプログラム(全1回)を実施した。さらに,作動記憶・処理速度のいずれか,もしくはいずれもが群指数90点を下回る7名を介入群2(3名),統制群2(4名)に分類し,介入群2に自己側面を整理するプログラム(全1回)を実施した。効果評価のため,プログラム前,直後,2週間後,1か月後,3か月後の5時点に質問紙調査を実施した。その結果,いずれの介入群においても,プログラム前より終了3か月後に否定的な自己複雑性得点ならびに抑うつ得点が低下傾向であった。 (2)うつ病患者への効果検証:うつ病患者9名を対象に,(1)と同様の手続きで対象者を介入群1(5名)と介入群2(4名)に分類した。介入群1には自己複雑性を高めるプログラム,介入群2には自己側面を整理するプログラムを実施した。いずれのプログラムも全5回であった。なお,効果評価のため,プログラム前,直後,1週間後,2週間後,3週間後,1か月後,3か月後の7時点に質問紙調査を実施した。その結果,介入群1は肯定的自己複雑性が増加傾向であり,介入群2は自己複雑性に関する数値に変化は少なかった。また,両介入群はいずれも抑うつ得点が低下した。 分析対象者が少ないため,結果の一般化には限界があるが,知能に応じたプログラムを実施することにより,抑うつが改善される可能性が示唆された。
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