研究実績の概要 |
本研究では,第三世代の認知行動療法として注目されているマインドフルネスの作用機序を解明するため,マインドフルネス傾向の個人差と脳構造との関連性について検討することを目的とした。近年,性格特性などの心理的要因と脳の特定領域における神経細胞の集まりである灰白質の体積に関連性があることを示す研究知見が多数報告されている(e.g. Gianaros, et al., 2007)。瞑想熟練者と一般の人の脳構造について比較した研究において,瞑想熟練者では前部島皮質が発達していることを確認しており(Lazar, et al., 2005),その後の研究においても同様の結果が報告されている(Holzel, et al., 2008)。この部位における灰白質の発達は,瞑想熟練者における身体状態への気づきを反映するものと考えることができる。 そこで本研究では,長年の訓練を伴わない人においてもマインドフルネス傾向の高い人においては,脳構造に違いが見られるのかを検討するため,5因子マインドフルネス尺度(Sugiura, et al., 2012)を使用し,核磁気共鳴画像法(MRI)により脳構造を撮像することでそれらの関連性について検討した。 その結果,先行研究同様マインドフルネス傾向の高い人では,前部島皮質が発達していることを確認した。さらに,腹内側前頭前野が発達していることが確認された。この脳領域は情動制御に関連する部位であり,迷走神経活動を調整する部位でもある。これらの結果から,マインドフルネス傾向の高い人では,ストレスなどの身体の変化を敏感にとらえ対処することができるとともに,情動制御能力が高いため一度駆動した情動反応を速やかに収束させることができると考えられる。さらに,迷走神経活動を調整する能力が高いことから,身体の炎症反応を抑制する機能が高いことが示唆された。
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