研究実績の概要 |
恐怖症に対するアプローチとして,認知行動療法の技法の一つに,恐怖場面に臨み消去させるエクスポージャーがある。しかしながら,患者が恐れている状況と物理的には接触しながら心理的には避けている場合,症状の悪化につながることが指摘されている。マインドフルネスでは,このような状況で「自己の身体や感情の状態を客観的に観察し受け入れる」といったメタ認知的活動を行うことで,消去を促進することが報告されている。そこで本研究では,マインドフルネスにおけるメタ認知的活動が,情動制御につながる神経基盤を解明することを目的として実験を行った。実験参加者21名を対象に,情動刺激(The International Affective Picture System: CSEA-NIMH, 2001)を呈示し,その際にメタ認知的活動を行った際の脳活動を計測した。さらに,不適応的な感情制御方略とされる感情抑制を対比させて検討した。 実験の結果,情動刺激に対してメタ認知的活動と感情抑制の双方で,普段通りに刺激を見る時と比較して,情動関連脳領域である扁桃体の活動が抑えられることが確認された。しかしながら,感情抑制では扁桃体の抑制と同期して活動が見られる部位として,デフォルトモード・ネットワークの一部である楔前部が観察された。よって刺激を呈示されている際に心理的に回避していた可能性が示唆された。一方,メタ認知的方略では,消去に関与するとされる内側前頭前皮質が扁桃体の抑制に関与することが示され,メタ認知的活動が消去を促進する技法として有効であることを神経基盤から明らかにした。この研究知見をまとめ論文として公刊した。
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