本課題では、ヒトを含む霊長類種を対象に「生物と物体の認識」について検討する。生物と物体をさまざまな特徴から区別し認識することは、生物学的な知識をはじめ、物理的知識や社会的知識といった、私たちの認知や行動を支える核知識を形成する基礎となる。これについて、霊長類種での種間比較から、ヒトとヒト以外の種がもつ認識の共通性や種差を知り、その系統発生に迫ることを目的とする。 昨年度までの研究では、生物・物体の運動特性に基づく認識を検討してきた。具体的には、「物体は外からの作用なしに自己推進的には動かない」が、「生物は外的作用による運動も、作用なしの自己推進的運動も可能である」ことをニホンザルとチンパンジーが認識しているかを検討した。実験は、ヒト発達研究の手法に倣い、選好注視を用いて行った。先述のルールに違反した事象(物体の自己推進的な運動)と違反していない自然な事象(物体の外的作用による運動、生物の外的作用および自己推進的な運動)を提示し、両事象を区別するかどうかを調べた。ヒト乳児ではその区別が違反事象への選好という形で見られる。実験の結果、ニホンザル、チンパンジーともに両事象を区別すること、つまり、生物と物体それぞれに適した運動特性を認識している可能性が示された。しかしこれは、ヒト乳児と異なり、自然事象への選好という形で示された。 そこで、本年度の研究では、同一の手続きや刺激を用いて、8-9ヶ月、5-6ヶ月児のヒト乳児での検討を進め、刺激や手続きの妥当性の確認とヒトとの直接比較を行った。
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