これまでの左右大脳半球機能差研究では、半視野瞬間提示法で得られた課題や刺激に応じた左右差を示す知見と、自由観察によって得られた主に右半球の優位性を示す持続的な左右差の知見がそれぞれ報告されてきた。本研究では新たに認められたエビングハウス錯視における持続的な左右差を対象として、左右差の基本的情報としての空間周波数情報処理の検討を加えることで、これまでの知見を整理し能動的な情報取得を行う左右大脳半球と視覚情報処理のモデルを構築することを目的として行われた。第1実験では、調整法とPEST法を用いてエビングハウス錯視における左右配置による錯視量の変化について検討した。まず、周囲の円の大きさ3種類、中央の円の大きさ3種類、錯視図形の配置位置2種類(右vs.左(周囲の円が無い場合は比較される円の配置))の組み合わせで、調整法を用いて実験を行った。次に、中央の円の大きさを固定し、周囲の円の大きさ3種類と錯視図形の配置の組み合わせでPEST法を用いて実験を行った。その結果、エビングハウス錯視の小さな円に囲まれた円を右に配置すると、同じ図形を左に配置した条件に比べて、中央の円がより大きく知覚されるということが確認された。第2実験では、第1実験で確認された現象が、錯視を左側に配置した時に錯視量が減少するのか、右側に配置したときに錯視量が増大するのかどうかを検討した。錯視図形を上下に配置した条件と、左右に配置した条件を比較した結果、錯視図形を右側に配置することで錯視量が増大することが示された。これらの結果は、一般的な右半球の空間情報処理に対する優位性によって説明することは難しく、課題目標に適合した空間周波数帯域の処理に対する左右大脳半球機能差による説明が適切である可能性を示唆するものであった。今後異なる刺激や錯視においても同様の持続的な左右差が認められるかどうかを検討していきたい。
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