研究課題/領域番号 |
25780446
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
日高 聡太 立教大学, 現代心理学部, 准教授 (40581161)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 視聴覚相互作用 / 視触覚相互作用 / 知覚マスキング効果 / 時空間一致性 / 時間判断 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,聴覚情報(白色雑音)によって視覚情報(光点)に対する知覚意識が抑制されるマスキング効果が起きるかどうかを検証する実験を行った。申請時には,聴覚情報と,手に対して提示される触覚情報および視覚的な手画像を知覚的に対応づけ学習させることで,聴覚情報によって視覚入力の知覚意識が消失するマスキング効果が生じることを予測したが,実際には知覚対応づけ学習を行わなくても,聴覚入力によって視覚入力に対するマスキング効果が生じることが分かった。さらに,視聴覚入力が空間的・時間的に近接して提示された時に,効果が選択的に生じた。このような時空間特性は,我々が先に示した視触覚間で生じるマスキング効果と極めて類似する。したがって,本研究で示された視聴覚間で生じる知覚的なマスキング効果は,視触覚間で生じる効果と共通のメカニズムを有し,異なる感覚入力間で密接かつ直接的な相互作用が幅広く生じることを示す,重要な知見であると考える。 さらに,当初想定していた視覚入力と,手に対して提示される触覚情報および視覚的な手画像を知覚的に対応づけ学習させる場面を詳細に検討したところ,時間的な判断に影響を及ぼすことも分かった。これまで,視覚入力と触覚入力を一定の時間差を持って対応づけると,両入力が同時であると知覚するタイミングが知覚的に変化することが知られていたが,研究によって効果が異なっていた。しかし,対応づけ時に視覚的な手画像を同時に提示したところ,知覚的に同時となるタイミングに関する知覚的な変化が頑健に生じることが分かった。さらに,視覚的な手画像が自分に対して順方向では無く逆方向に向いている場合は,このような効果が生じないことも分かった。これらの結果は,視覚的な手画像が自己の身体表象を介して視覚入力と触覚入力の結びつきを媒介し,物理的な入力の時間的なズレの気づきを抑制する効果があることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度は,聴覚情報によって視覚情報に対する知覚意識が抑制されるマスキング効果が起きるかどうかを,予備実験および本実験を通じて調べる予定であったが,平成25年度に行った実験のパラメータを転用し,視触覚入力間でのマスキング効果と同様のメカニズムにより,視聴覚入力間でも知覚マスキング効果が生じることを実証した。さらに,当初の研究計画に基づいた実験によって,新たに時間判断にも知覚的な抑制効果が生じることが分かった。前者の研究成果は既に国際査読誌に採録決定済みであり,後者の研究成果も国外の学会において既に発表済みである。以上のように,当初の研究計画以上の成果があがったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予測に反し,聴覚入力が視覚入力に対する知覚意識を消失するマスキング効果が,手画像の提示を伴わなくても頑健に生じることが分かった。我々が先に示した視触覚間で生じるマスキング効果に関する研究成果と合わせて考えると,複数感覚入力間には神経活動レベルにおいて密接かつ直接的な相互作用が生じる可能性が高い。そのため,研究協力者と共同で,知覚マスキング現象に関する神経生理学的な検討も行うことを進めていきたいと考えている。また,まだ検討を行っていない聴触覚間の相互作用についても検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は研究成果の公表に力を入れ「旅費」を多く使用し,また「物品費」,「人件費・謝金」についても順調に支出を行ったと考える。一方,データの保存機器(ハードディスク)に関する「その他」区分からの支出が想定を下回り,その結果として次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は,本研究課題の最終年度となる。「その他」区分からデータの保存等を考慮に入れた支出を行うと共に,他の区分についても当初の計画を考慮に入れながら慎重に使用を行う予定である
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