平成27年度は,触覚情報によって生じる視覚の「知覚的なマスキング効果(見えにくくなること)について,fMRIおよび脳波を用いた脳機能計測実験を行った。実験では視触覚入力の提示の有無および空間的な一致性について操作した。入力が空間的に一致せずマスキング効果が起きない場面では,視触覚入力の提示によって視覚領域および体性感覚領域に相当する領域の活動が上昇した。しかし,視触覚入力が空間的に一致しマスキング効果が生じる場面では,視覚,体性感覚,感覚連合,および皮質下領域において活動の低下がみられた。また,視触覚入力が空間的に一致する場面において,マスキング効果が生じた群では,効果が生じなかった群に比べ視覚および体性感覚領域の一部に活動の増加がみられ,体性感覚領域の活動と触覚による視覚抑制効果の強度との間には正の相関があることも分かった。また,脳波実験では,視触覚入力が空間的に一致しマスキング効果が生じる場面では,入力が空間的に一致せず効果が起きない場面に比べ,触覚入力に対する頭頂付近の電位変化が強まり,また視覚入力に対する後頭葉の電位変化が小さくなることが分かった。 本研究の申請時には,異なる感覚入力を対応づける学習手続き後に知覚的なマスキング効果が生じると予測したが,実際には学習手続きがなくても異なる感覚入力による知覚抑制効果が導かれることが判明した。そして,1. 触覚入力によって視覚入力の見えが阻害されること,2. 聴覚入力によって視覚入力の見えが阻害され,触覚による現象と非常に類似した特性をもつこと,3. 視触覚入力によって触覚を司る脳活動領域の賦活および視覚入力を司る領域の活動低下が見られることが分かった。以上のことから,異なる感覚入力による視知覚の抑制効果は知覚的な処理段階において生じ,複数感覚入力に伴う抑制的および促進的な神経活動の相互作用が関わることが示唆された。
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