我々が日常生活で直面する問題の中には,過去の経験が役に立たず,新しい解を創造する必要のある問題が数多く存在する。このような問題を解決するための認知過程は洞察と呼ばれる。そして洞察が生じると,あたかも突然「解がひらめいた」ように飛躍的に問題が解決される。本研究では,「洞察は直感的には突然生じるが,操作可能である」という仮説に基づいて,洞察の生起メカニズムを実験心理学的に検討する。さらに,洞察が生じるときの生理指標の測定を通して,洞察を促すための統一的・普遍的手法の開発を目指す。 前年度には,認知課題中の眼球運動の変化が認知活動の変化を反映している可能性を示唆する結果を得ることに成功した。平成28年度はそれらのデータの解析をさらに進め,「問題解決において洞察を促すための統一的・普遍的手法の開発」をすべく,得られた知見をまとめる作業を主に行った。その結果,人間は時間経過と共に問題に対する認知を変えること,そしてこの認知の変化が洞察の生起に関わっている可能性が高いことがわかった。この認知の変化は,単純な時間経過や社会的文脈の影響を受けて潜在的に生じるが,眼球運動としてある程度顕在化することもわかった。さらに,人間の基本的な認知過程は,社会的文脈や入力された刺激の形状によって短時間で操作される可能性があることも追加的に明らかになった。これらの成果は本研究課題の仮説を支持するものであり,年度の目的のみならず研究課題全体の目的を達成したことを示している。得られた成果は,立正大学で開催された講演会において発表された。
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