研究課題/領域番号 |
25780450
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
時田 賢一 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (70384188)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 報酬 / 味覚 / 味覚反応テスト / うま味 |
研究概要 |
ヒトを含む動物は、報酬(Reward)に接近し、罰(Punishment)を回避するという種を超えた普遍的な行動の機構を備えている。それは報酬獲得行動が、個体の生存において基本的かつ重要な役割を果たしている適応的なものであるからにほかならない。したがって、そのメカニズムの解明は、動物行動の一般原理に関する理解に大きく寄与するものと期待される。サルを被験体とした報酬獲得行動の神経科学的研究において、報酬として最も広く一般的に使用されているのは、水や果物ジュースといった味覚刺激である。そこで、本研究では、サルの報酬獲得行動における味覚刺激の報酬価を測定するため、味覚反応テスト(Taste Reactivity Test)をもちいて、味溶液摂取時のサルの表情を詳細に記録・分析した。味覚反応テストは、味覚刺激を呈示された際に動物が示す表情や舌の動きを定量化するものであり、げっ歯類における神経科学・行動科学領域で確立されている方法であるが、霊長類を用いた研究は数が少なく限られた知見しかない。 実験は、3頭のカニクイザルを被験体としておこなった。味刺激は、スクロース(甘味)、食塩(塩味)、塩酸(酸味)、塩酸キニーネ(苦味)の4基本味に加えて、第五の基本味とされる、うま味刺激として、グルタミン酸ナトリウム(MSG)、イノシン酸ナトリウム(IMP)、およびMSGとIMPの混合溶液をもちいた。その結果、霊長類やげっ歯類に好まれる甘味や塩味といった味刺激に対する舌の運動(Tongue Protrusion)は、酸味や苦味刺激に対するそれよりも出現頻度が高い傾向が認められた。また、うま味に対する舌の運動も、MSGやIMP単独で呈示したときよりも、それらの混合溶液を呈示したときのほうが、出現回数が多い傾向があった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、サルの報酬獲得行動において、味覚反応テストをもちいることによって、様々な味覚刺激の報酬価を客観的に測定することを目的とした。味刺激呈示時のサルの表情をビデオで撮影し、その後様々な表情の出現頻度をカウントすることで、各味刺激に対するサルの情動的評価を定量化するという方法を採っているが、好ましい味とそうでない味では表情反応に違いが認められること、うま味刺激単独で呈示したときよりも、混合溶液を呈示したときのほうが反応が多いこと(うま味相乗効果)などが明らかになった。これらの結果は、刺激の呈示方法や刺激の濃度が適切であったことを示している。2013年度は、3頭のサルから解析に十分な量のデータの収集をすることができたことから、本研究はおおむね順調に進捗しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
2013年度の研究によって、収集すべきサルの表情に関するデータは全て得られたと考えている。現時点までの表情データの予備的解析により、味刺激によってTongue Protrusionの出現頻度が変化することが明らかになったが、次年度は、先行研究によって報告されているTongue Protrusion以外のいくつかの表情も含めて詳細にデータ解析をする必要がある。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初計画された電気生理学的実験の前段階として、味覚反応テストをもちいた行動実験の遂行が必要という認識に至り、当初購入予定だった実験機器の購入を見合わせたため。また、データの詳細な解析にはまだ時間が必要だったため、学会発表はおこなわず、それに伴う諸費用が必要でなくなったため。 実験データの解析と論文執筆に必要なパソコンおよび各種ソフトウェアが必要となる。本研究によって得られた成果を発表するため、学会発表に伴う諸費用、および論文発表に伴う諸費用が必要となる。
|