研究実績の概要 |
本研究は,高齢者が視覚情報の処理と保持を行う際に賦活する脳領域が,その強さや範囲の面で若年者と差があることをfunctional magnetic resonance (fMRI) によって示すとともに,臨床場面へ応用可能な技術の開発を目的とした。平成25年度は視覚的記憶課題 (N-back) を用いて成績を年代群間 (若年群,高齢群) で比較した。その結果,課題負荷の異なる認知課題の脳賦活応答の比較を臨床画像診断に応用できる可能性を示唆した。この結果を受け,26年度はワーキングメモリ負荷の上昇に伴う賦活応答の傾斜をWBG (the working memory load-dependent BOLD response gradient) とし,その年代群間の差を吟味することを目的とした。負荷上昇と加齢との間に生ずるWBGの交互作用によって認知機能の加齢影響を客観的に検出する手法の開発を試みた。本研究ではfMRIを用い,Task Switch課題 (TSP) と視覚的N-back課題におけるWBGの年代群間の差を検討した。TSPでは速度(CSI = 50,650,1250ms),N-backでは記憶負荷量(N = 1, 2, 3)のそれぞれ3条件を実験条件とし,課題難度の上昇に伴う脳賦活の亢進を調べた。その結果,年代群間のWBGの傾斜の差がみとめられた。この結果は5) CRUNCH現象および 6) 高齢者のワーキングメモリキャパシティの低下が影響したと考察された。本研究から課題選択の抑制機能(TSP)や記憶の更新機能(N-back)に関わる領域の加齢影響を客観的に検出する認知計測法として,難度の異なる認知課題の脳賦活応答の比較を臨床画像診断に応用できる可能性が示唆された。
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