近年、識字実践のもつ生きがいとしての機能を評価しようという議論の高まりがある。その一方で、居場所機能を強調する中で、人間解放をめざす運動的側面が脱色されることを危惧する声もある。本研究の目的は、「居場所としての識字」と「解放のための識字」の接合可能性について、現場の「声」を整理する作業を通して明らかにしていくことにある。青春学校(福岡県北九州市八幡西区)と釧路自主夜間中学「くるかい」をメインフィールドとして継続的な現地調査を行ってきた。 3ケ年計画の最終年度である本年度は、第一に、メインフィールドのひとつである青春学校を母体とした北九州における夜間中学増設運動の展開過程を明らかにした。運動は教職員組合を中心とした「教育運動コミュニティ」と青春学校に関わる大学関係者を中心とした「アカデミックコミュニティ」を両輪としつつて担われていた。そして、両輪をつなぐ軸として青春学校をはじめとした市内の識字実践の日常があった。第二に、筆者の問題関心とその研究成果を実践レベル、研究レベルで確認するために、基礎教育保障学会設立準備会に参画した。第三に、本研究を進めていく上で得られた研究方法に関するアイデアを執筆・発表した。実践の理論化の方法論として近年の翻訳研究の知見を援用しながら論じた。 本科研の研究成果を体系化していく作業は、時間切れに終わってしまった。残された課題として、引き続き取り組んでいく。
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