本研究では、キャパシティ・ビルディングに着目して米国における「学校力」を開発する学校改善の取組みを調査し、その構造と実態を明らかにした。 米国において1990年代後半から2000年代はじめに行われた学力不振校の研究の検討から、学校改善にはキャパシティ・ビルディングが重要であるという知見が確認された。しかし、2002年の「どの子も置き去りにしない法(No Child Left Behind Act of 2001)」の制定以後、学業成績の向上を重視する強硬な学力不振校改革が進められた。第二期オバマ政権の学校改善の方策においても、学力不振校の校長や教職員を入れ替えたり、学校運営方法を変更したり、閉校にしたりする方策や、テスト成績に直結した教員評価が推進され、学校内部の力を育むキャパシティ・ビルディングよりも、短期間でテスト成績を上げることを重視してきた実態がある。 一方で、州教育局が主導する学校改善も同時に推進された。州による学校改善への支援は90年代半ばにも一時展開されたが、現オバマ政権においても各州の実態に応じて州の裁量のもとで進められている。マサチューセッツ州では、州の学校改善チームによる学力不振校への介入が行われていることに加え、教師の専門的な基準として「協働」や「教師の専門的な文化の醸成」が設定され、個人と学校組織の両方のキャパシティ・ビルディングを重視する学校力を高める取組みが目指されていることを事例に基づき明らかにした。また、これまでの学校改善の方策を活かして、教師の専門性の開発や特色ある教育方法を取り入れた「イノベーション・スクール」が創設されている事例を検討した。この方策が学校力を強化し継続して学校改善に寄与するかの実証的な検討は今後の課題としたいが、米国のみならず日本においても、本研究で解明された学校力を高める学校改善の構造と事例は示唆に富むと考えられる。
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