研究実績の概要 |
本研究の目的は、ガダマー(Gadamer, H.-G., 1900-2002)の哲学的解釈学に依拠しつつ、グローバル化社会における一般教養の教育の可能性を提示することである。そのため、本研究では次の課題に取り組んだ。一、ガダマーの一般教養論の現代的意義を検討する。その際に有力な手がかりとなるのが、ガダマーの講演「今日、一般教養とは何か」(1995)である。当時の講演記録はマールバッハのドイツ文学資料館に保存されている。この未刊の遺稿を手がかりに、ガダマーの一般教養論の可能性と限界を明らかにする。二、グローバル化社会に求められる一般教養の概念を、時代の隔たりや異文化間の差異を媒介する実践、すなわち「多元的意味世界における対話」として捉え、その可能性を探求する。具体的には、哲学的解釈学に依拠した教授学の理論(Musolff/Hellekamps 2003)を参考にしつつ、異なる文化的背景を持つ他者と対話しつつ共生していく社会を実現するための一般教養の教育の可能性を検討する。 以上の作業を通して明らかになった主な点は次の二点である。一、ガダマーの一般教養論の意義は、現代社会の様々な課題に対し、学習者が自ら問いを立て、対話によって答えを模索していく過程を意味する概念として、一般教養を再定義している点にある。学習者の問いを喚起し、判断形成を促すことが一般教養の教育の本質であるという趣旨の指摘は、現代のグローバル化社会における一般教養の教育の可能性を示唆するものである。二、ガダマーの一般教養論の問題点は、大学のような教育機関で教育できる一般教養と、学校の教授学習過程にはなじまない一般教養とが区別されていない点である。学校で教育できる一般教養と、生涯にわたる人間形成の課題としての一般教養を区別したうえで、一般教養の教育の内容とその有効な方法を検討することが今後の課題である。
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