研究課題/領域番号 |
25780475
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
杉田 浩崇 愛媛大学, 教育学部, 講師 (10633935)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 概念的/非概念的 / マクダウエル / ドレイファス / 道徳教育 |
研究概要 |
本研究の目的は、道徳教育において子どもが自分の行為理由を明確化するときに、「なぜ」という問い、および条件文を用いた応答が果たしている役割を明らかにすることである。 平成25年度は、課題遂行に有益な視座を提供するJ.マクダウエルの理論をその論争相手であるH.ドレイファスと比較することで、成文化はできないが合理性をもつという行為理由の特異性を明らかにした。ドレイファスは身体化された技能知が非概念的であり、行為理由を合理的に説明する過程には含まれないと主張し、概念化能力を強調するマクダウエルを批判する。だが、二人の論争を検討すると、マクダウエルの想定する概念化能力はドレイファスの想定するものとは異なっていることがわかった。結果、理由づけがあらかじめ心の中で生じているはずだという想定をしなければ、理由を明確化するよう行為者に求める言語実践が道徳教育を行うにあたって規範的に要請されるということが示唆された。 成果は中国四国教育学会第65回大会(於:高知工科大学)で口頭発表し、『教育学研究』(CD-ROM版)に掲載された。また、D.ウィギンスによるアリストテレスの実践的三段論法の解釈と道徳的な状況の知覚との関係を、マクダウエルとドレイファスの論争と関連付けたうえで、実践的推論の形を取ることで知覚が道徳教育においてどのような役割を果たすのかを検討した。その成果は、イギリス教育哲学会(於:オックスフォード大学)にてポスター発表した。 以上の作業から、共同体や社会の中で暗黙的に獲得した道徳性が、理由を明確化する言語実践を契機として語られる過程を、非概念的な技能や心の中で事前になされる規則の適用といったものに訴えかけることなく、考察する視座を得ることができた。ただし、その過程は実践的三段論法のような形式に還元されるものではないと考えられるため、より詳細な検討が必要となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は計画当初、マクダウエルの理論をその論争相手であるドレイファスとブラックバーンと比較する予定であった。だが、異動等による研究環境整備の必要性もあり、ブラックバーンとの比較は行うことができなかった。しかし、ドレイファスとの比較については、両者の論争をめぐる論文集をはじめとして検討を進めることができ、さらにはマクダウエルの理論の背景となっているウィギンスのアリストテレス解釈も検討することができた。この点については、研究計画よりも進展をみることができ、とりわけ実践的三段論法と知覚との関係を道徳教育の文脈で検討できた点は有意義であった。なぜなら、その結果として、実践的推論の多様な形態へと目を向ける必要性が見出され、次年度以降の研究をより多角的に展開する見込みが持てたからである。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、(1)マクダウエルとブラックバーンの比較検討を進め、道徳的実在論/非実在論の論争において教育がどのような位置を得ているのかを検討する。これについては部分的にすでに進めており、さらなる進展を見込んでいる。(2)当初予定通り、ブランダムの条件節に関する議論を考察することで、暗黙的に行っている行為を言語によって明示化する過程について検討する。ひとは、他者から「なぜ・・・した(する)のか」と問われることではじめて、条件文を語りだし、そこから導かれる事実を是認する。ブランダムの特徴はその過程を、①行為理由を明確するときの言語の用法を体系的に分析するとともに、②自己形成と規範の関係を思想史的に捉えなおす文脈でも捉えている点にある。作業は、①②に関わる文献を精読することで研究を進めていく。 平成27年度は、それまでの成果を踏まえて、反事実的条件文の考察を行う。その上で、反事実的条件文を用いた実践が、ある個別的事例における判断の理由を教育者が学習者に聞くという場面を出発点として、ありうる様々な反事実的状況を想定し、それらに価値の重みづけを行うという過程に結びついているという見立てのもと、事例を用いた道徳教育のあり方について教育実践のビデオ分析などを行い、検討を加える予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
計画当初アメリカ教育哲学会で発表する予定であったが、異動に伴い研究環境整備や日程調整に時間がかかり、マクダウエルとブラックバーンの比較を行うことができず、その成果を発表するには至らなかった。しかし、マクダウエルとドレイファスの比較を、より発展的にウィギンスのアリストテレス解釈や日英米における道徳教育の議論と関連付けることができた。そこで、当初予定していたイギリス教育哲学会での発表に加えて、中国四国教育学会でも発表することにした。結果、発表旅費の差額が未使用額として生じた。 マクダウエルとブラックバーンの比較を行い、その成果を中国四国教育学会(於:広島大学)にて発表するための旅費に充てる予定である。
|