平成27年度の研究成果は、教科書における「学習課題」の分析に基づいて、実際に小学校の算数の授業づくりとその参与観察、さらにはその授業分析をドイツの教授学研究者とともに実施した点にある。ここから、授業において子どもたちがどのような「課題意識」をもって学習に臨んでいるのかが重要なファクターであることを指摘した。 研究全体を通じて得られた研究の成果は、次の三点に集約できる。まず第一に、教科書における「学習課題」を教科・学年横断的に分析する分析枠組みを提起したことである。学習課題や検証課題の数といった基礎情報だけではなく、「事実に関する知識」・「手続きに関する知識」・「メタ認知的知識」という三つの知識観に着目して、教科書における「学習課題」を分析することで、授業において学習者が取り組む「学習課題」がどの知識にポイントを置いているのかを明確にすることができる。第二に、日本とドイツの教科書の比較研究を通じて、日本の教科書における「学習課題」の特徴を明らかにしたことである。日本の教科書は、「手続きに関する知識→説明→事実に関する知識」という構成になっているパターンが圧倒的に多い。さらに、「メタ認知的知識」を問う課題が少ない。こうした特徴は、授業づくりにおいてどの「知識」に着目してどのような「学習課題」を子どもたちに提供するのかの実践的な示唆を与えるものでもある。第三に、教科書が「学習の触媒」として機能するためには、授業における子どもたち自身の「課題意識」をつなげていく必要があることを実践的に検討した点である。教科書における「学習課題」はそのまま直接的に子どもたちが取り組む「課題」となるわけではない。授業においては、子どもたちの「課題」への意識を明確化させ、さらにその「課題」に取り組む授業プランや子どもたち相互のインタラクションを構想しておく必要がある。
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