最終年度として、前年度までに引き続き訪問調査を実施した上で、これまでの情報収集・現地調査の結果を踏まえて、本研究の全体像を描き出した。事前に訪問調査予定地域として豪州の一般的な教育の現状および華人の居住状況と教育の現状について情報収集を実施した。その結果、都市部中心に中国語教育を展開している教育機関に注目して学校を選定し、連絡をとった上で訪問した。南部の都市にあり土曜日に公立小学校を借用して中国語教育を実施しているX機関は、現地大学入試の中国語科目対策や、初学者のための就学前段階をターゲットにした無料親子講座を開くなど、現地政府やコミュニティとの密接な関係をもとに、公的補助を得つつ、多様な取り組みを実施していた。南東部の大都市にあるC機関は、公立小学校の一角で放課後に中国語教育を実施している。各地で様々なレベルの教育を実施しており、校長や保護者との面談から中国語を学ぶ理由等について確認することができた。東部の都市にあるZ機関は、宗教団体が土曜日に寺院の中で中国語教室を実施している。単なる言語教育ではなく、教員や保護者が協力しながら中国文化を学ばせようとしており、そうしたイベントやコンテストにも積極的に参加していた。研究期間全体における研究・調査により、本研究の目的であった、華人という共通の視点を用いて、各国の教育システムの特徴を明らかにするとともに、各地で中国語や中国文化を、教育や保護者が、宗教団体等とも協力しながら実施する姿が確認できた。一般に海外の華人社会は強力な華人ネットワークを背景にしていると説明されるが、教育については華人コミュニティにとどまらず、現地政府や現地のコミュニティと密接な関係を作り出す工夫がよくみられ、こうした中で形作られたさらに強力なネットワークのもと、子どもたちの成長を図り、また現地社会で成功を修めるための手立てを探っていることが明らかになった。
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