本年度は、まず明治後期から大正期における書字教育の実態について、芸術性を重視する立場と実用性を重視する立場の二項対立の状況について調査を行った。 はじめに、明治20年代の書字教育において、欧米の言語学やペンマンシップ理論の影響をうけ、字形に偏重した急進的な改革がなされたことを確認した。その後、反動として明治20年代後半には書字教育において字義を見直す動きが高まり、国語科「書キ方」が成立する一つの要因となったことを指摘した。 つぎに、大正期における水戸部寅松、佐藤隆一の「書キ方」教育理論に注目し、国語科「書キ方」における「読ミ方」「綴リ方」との三領域の連絡の意義を確認した。こうした大正期には、硬筆と毛筆、実用性と芸術性、収得教科と発表教科という二項対立図式がみられた。 とりわけ、佐藤隆一は、こうした二項対立に拘泥せず、言語教育としての書字教育に着目しており、教育学によって二項対立を克服すべきである主張していた。このように本研究の成果として、大正期の書字教育においては、その教育の意義を二元的にとらえる主張がなされるようになり、その目指す教育目的の領域を拡大してとらえる動きがみられたことを確認した。
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