研究課題/領域番号 |
25780489
|
研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
須田 将司 東洋大学, 文学部, 准教授 (00549678)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 報徳教育 / 錬成 / 昭和戦前期 / 児童常会 / 学校報徳社 / 1930年代 / 新興報徳運動 |
研究実績の概要 |
本年度における研究成果の第一は、平成25年度に教育史学会にて発表した富山県の「学校報徳社」・「児童常会」の端緒性を解明した論稿が、査読を経て『日本の教育史学』第57集(2014年10月)に掲載されたことである。査読の過程でいくつか事実確認に関する応答があったが、研究視角や独創性に関わっては認められ掲載に至った。 第二に、報徳教育の教育学的展開、戦後からの逆照射に関し、戦後「児童常会」を継続した神奈川県福沢小学校に在職した元教員(86歳)からの聞き取り調査が実現し、これを『東洋大学文学部紀要』第68集教育学科編ⅩL(2015年3月)に掲載できたことである。「児童常会」を継続し、これを「話し合い活動」を重視する社会科授業論へと展開させていったこと、これが「学力低下」をもたらすと地域社会から批判されたこと、しかし教員側では教育学的な意義を見出して実践を重ねていったことが語られた。報徳教育が戦後初期社会科の源流の一つに位置づくことが確認された。 第三には資料収集が挙げられる。まずは「新興報徳運動」を支えるメディア・雑誌『常会』(中央教化団体連合会刊、1939年7月号~1944年3月号)につき古書店から機関未収蔵13号分を発見・収集できたことである。次に児童常会・学校報徳社の延長上に位置づくとみられる「学校少年団・常会」と「子供隣組・常会」の史料群を国立国会図書館・国立歴史民俗資料館・(財)後藤・安田記念東京都市研究所市政専門図書館などからリストアップし、収集を進めたことである。これら基礎資料群のリストアップと整理をすすめ、以後の研究基盤を整備することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で平成26~27年度にかけて掲げたのは、第一に富山県・埼玉県・北海道における先駆的実践校の実践例を比較検討、第二に報徳教育学者・加藤仁平や報徳主義地方官僚・遠山信一郎らの論稿から錬成論的・教育学的意義の抽出、第三に1938年の国民精神総動員運動以後の錬成論への展開、そして第四に戦後からの逆照射を掲げていた。 第一点目や第二点目は著しく官製運動・「日本精神」論が色濃く、これまで戦争推進を担ったものと断罪的に捉えられ、形成から展開に至る経緯で未解明な部分が多かった。これを史実として時系列的に整理し、当事者の自問自答に着目する研究視角からの分析を進めてきている。第一点目に関しては2015年5月の全国地方教育史学会にて、第二点目に関しては同8月の日本教育学会にて研究発表すべく準備を進めている。 第三点目に関しても先述の「研究実績」の第三で挙げた資料収集と整理が進んでおり、「学校少年団」や「子供隣組」への展開を分析した研究発表を、2015年の教育史学会において行うべく準備を進めている。 第四点目に関しても、先述「研究実績」の第二で挙げたように、元教員への聞き取り調査を実施、記録を公開している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでのところ研究が順調に推移しているため、当初の計画通り以下の3点につき、特に戦前期のⅠ・Ⅱに焦点を絞って研究を推進していく予定である。 Ⅰ「新興報徳運動」下における報徳教育実践と理論の分析:富山県を端緒に、1935年前後に埼玉県・栃木県・島根県で展開していった先駆的実践を比較検討し、その異同や類型化を行う。また、報徳教育学者・加藤仁平の論稿から錬成論的・教育学的意義の抽出を明確化し、報徳教育実践の時代適合性や限界、または教育論としての可能性を吟味する。 Ⅱ 常会論の抽出に関する分析:Ⅰと関連し、その後国民精神総動員運動を経て教育審議会・新体制運動などをくぐる中で登場する常会論の抽出につき、教育史の研究視角から事実を整理し、その展開を意義づけていく。具体的には児童常会から学校少年団常会・子供隣組常会への展開に焦点を当て、いかなる言葉をもって錬成論へと直結していったのかを分析するとともに、戦時下における理論・実践の到達点と限界性を分析する。 Ⅲ 戦後からの逆照射の試み:戦後に報徳教育の要素を受け継ぎ教育実践を構想した教員の回顧と重ね合わせることで、戦前の報徳教育の到達点と限界性のより明瞭な把握を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に東京都内の収蔵機関及び国立歴史民俗博物館の調査および古書購入を優先的に行い、その資料整理を行った結果、一定の成果が上がった反面、富山県・北海道・栃木県・埼玉県などの追加調査には十分な時間と労力を確保することができなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越しとなった予算に関しては旅費に計上し、追加調査費用及び今年度予定している3度の学会発表のために効果的かつ確実に活用・消化していく予定である。
|