文字に書かれた物語を覚えて語る口演童話の特徴の一つは、古くから共同体で語られてきた昔話を新たに「国民童話」に書き直した点で、それは近代以前の昔話を、子ども-家庭-国家という結びつきの下に再現する役割を果たした。 この口演童話が学校へ普及すると、娯楽的要素を残しながらも、教育意図の達成が語りの表現、内容ともに重視されるようになった。 ただその核心は、おはなしの場において教育者が子どもと目の交流を行うことにあった。声を媒介とした相互行為という語りの性質は、文字の物語の変容可能性を促すことにより、戦前の教育を規定する指導する者・される者という二項対立では解消しきれない豊かな学びのあり方を示していた。
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