本研究では、手工科教育の充実期(1926年~1942年)に実施された「文検」手工科の出題傾向や内容について、「師範学校教授要目」(1925年文部省訓令第7号および1931年文部省訓令第7号)、および模索期(1886年~1906年)や定着期(1907年~1925年)における試験問題の内容との関連で考察し、この時期の試験問題の特徴として、次の4点が指摘できた。 第1に、構想・計画・立案・段取りなどに関わる創意的・構成的能力を第一義に位置づけた物品製作課題、および物品製作とは切り離して図学や図学を応用した「製図」の問題が毎回出題されていた点である。 第2に、小学校や師範学校の手工科で行われる各種の「細工」について、「木工」、「金工」、「粘土細工」に加えて、「セメント細工」や「手芸」に関しても出題され、とりわけ「木工」については、工作機械の種類や使用法についても出題されていた点である。 第3に、「教授法」に関する問題において、国家社会の動向や教育思潮の内容、およびそれらと手工科教育との関係を問う問題が出題されていた点である。 第4に、「教授法」に関する問題において、小学校や師範学校の手工科を改善または充実させるための具体的方策について出題されていた点である。 以上のように、手工科教育の充実期(1926年~1942年)における「文検」手工科では、模索期(1886年~1906年)や定着期(1907年~1925年)と同様に、物品製作の技能や、図学の知識および製図の能力が最も重視され、かつ、手工科担当師範学校教員として、国民形成を担う教育者として、また、地方の手工科教育の中心となるべくリーダーとして、より幅広い視野や多様な知識、および人柄や人間性についても、手工科担当師範学校教員に必要不可欠な基礎的素養として考えられていたとみることができた。
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