研究課題/領域番号 |
25780505
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪成蹊短期大学 |
研究代表者 |
井藤 元 大阪成蹊短期大学, その他部局等, 講師 (20616263)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | オルタナティブ教育 / エポック授業 / イギリスのシュタイナー学校 / 芸術教育 / 遊びの人間学 / パウル・クレー / ゲーテ自然科学 |
研究概要 |
平成25年度は、二度の学会発表を行った。具体的には、ホリスティック教育研究大会(於:大妻女子大学)において、「ゲーテ自然科学の実践的応用としての「フォルメン線描」―シュタイナーの「フォルメン」とクレーの「フォルムング」―」と題する研究発表を行い、日本教育学会(於:一橋大学)において、「臨生思想と遊びの人間学」と題する研究発表(共同)を行った。後者の研究成果は雑誌『臨床教育人間学』に研究ノートとして掲載された。 また、国内外のシュタイナー学校において、現地調査を行った。9月には藤野シュタイナー学園にて研究調査を行い、エポック授業の見学を行ったのだが、その成果として、雑誌『ホリスティック教育研究』に『シュタイナー学園のエポック授業―12年間の学びの成り立ち』(せせらぎ出版、2012年。藤野シュタイナー学園の授業についての詳細な実践記録)の書評を投稿し、同雑誌に掲載された。同じく9月にイギリスのウィンストンズシュタイナー学校を訪れ、イギリスのシュタイナー教育について教員から聞き取り調査を行い、授業の見学も行った。また大阪府にあるシュタイナー子ども園の見学を行い、シュタイナーの幼児教育の現状も調査した。 そして、シュタイナーの重要論文「ゲーテの黙示 ゲーテ生誕150周年のために」(1899年、『文芸雑誌』所収の論文)を翻訳し、『大阪成蹊短期大学紀要』第11号に掲載された。 さらに、『子どもの心によりそう保育内容総論』(福村出版、2013年)において、「第14章 多文化共生の保育、いのちを大切にする心をはぐくむ教育」の執筆を担当した。本章においては、子どもたちの未来を見据えて人権保育を行ってゆくうえで、保育における人権とはいかなるものかについて「子どもの人権」の問題を検討する中で吟味した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究期間は2年間であるが、まず初年度の平成25年度において、ルドルフ・シュタイナーの芸術教育を支える人間形成論を解明するための根本的な視座を獲得できたように思われる。実際にイギリスのシュタイナー学校と藤野のシュタイナー学校を訪れ、現在、全世界で広く受容されているシュタイナー教育の実践がいかに行われているか、現場教員への聞き取り調査によって現状を把握することができた。両国のシュタイナー学校での調査により、イギリスのシュタイナー教育の実状と日本のそれとの差異が明確になったとともに、両者の同質性も明らかとなった。そして、シュタイナーの芸術教育はゲーテ自然科学を基盤としており、ゲーテの自然科学を実践的に応用した教育であることが明確化した。 また、大阪府にあるシュタイナー子ども園を見学し、わが国におけるシュタイナーの幼児教育についての現状を把握した。現場教員との対話を通じて、文献研究だけでは得ることのできない、シュタイナー教育のアクチュアルな姿を捉えることができ、そうした現場での調査を土台とすることで、文献研究に際してテキスト解釈を深化させることができた。そして、実践を支える思想に関しても、芸術家パウル・クレーとシュタイナー思想との比較研究、およびシュタイナー教育に内在する遊びの人間学の研究を通じて、その根本的構図を解明することができた。そして、その成果は【研究実績の概要】欄にも示した諸々の研究実績のうちに結実している。 平成26年度は、平成25年度に得られた研究成果をもとに、現地調査と文献研究を絶えず往復し、シュタイナー教育がなぜかくも現代において普及しているのか、シュタイナーの芸術教育のメカニズムを解明してゆきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、平成25年度の研究成果をもとにシュタイナーの芸術教育を支える思想的構図を多角的に解き明かしてゆく。具体的には、まず第一にシュタイナーの芸術教育が道徳教育として子どもたちのうちに作用している点を検証してゆく。シュタイナーの芸術教育は単に子どもたちの芸術性を高めるためだけに用意されているのではない。芸術教育を行うことが即、道徳教育にも通じているのである。この点を明らかにすべく、他大学の若手研究者と道徳教育に関する共同研究を行い、その成果を日本教育学会(於:九州大学)において発表する。また、その発表内容を論文形式にまとめ、雑誌『ホリスティック教育研究』に投稿する。 さらに二点目として、シュタイナーから影響を受けた芸術家たち(パウル・クレー、ワシリー・カンディンスキー、ヨーゼフ・ボイス、ミヒャエル・エンデ)の思想に着目し、シュタイナーの芸術教育の理念が、のちの時代の芸術家たちにいかなる影響を及ぼしてきたかを明らかにする。この作業を通じて、シュタイナーの芸術思想の内に潜在する普遍化可能な原理を抽出する。 そして、三点目として、平成25年度に引き続き、シュタイナー教育に携わる現場の教員とコンタクトを取り合い、シュタイナー学校における教育の現状を捉える。思想と実践を絶えず往復し、文献研究で得られたシュタイナーの芸術教育における構図が、実際にどのように現場の教育のうちに息づいているかを調査する。 また、申請者は現在、教育学に関する著書を執筆中であるが(井藤元編『ワークで学ぶ教育学(仮)』ナカニシヤ出版、2015年)、この著作の中で、シュタイナーの芸術教育のもつ特異性とその意義を解き明かす予定である。
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