本研究の目的は、社会科学分野の大学教育(学士課程教育)における学習経験が就職活動・初期キャリアに対してもたらす職業的レリバンス(意義・有効性)を社会調査によって実証的に明らかにすることである。 この目的を達成するための第1段階として、平成25年度には、就職活動を経験した大学4年生に対する聞きとり調査を実施し、大学の学習経験における熟達過程はどうなっているのかという問いを検討した。そこでは、レポートの執筆等に関する学習経験を指標化した。 この結果を踏まえて、第2段階として、平成26年度には、就職活動を経験した大学4年生に対する質問紙調査を実施し、就職活動に対して有効な大学の学習経験は何かという問いを検討した。この中で上述した学習経験に関する指標を質問項目として盛り込み、就職活動結果との相関関係を定量的に分析した。その結果、読書とレポートに関する学習経験の一部が就職活動結果に対して一定程度の正の影響をもたらしていることを明らかにした。 第3段階として、平成27年度には、民間企業の就業者に対する質問紙調査(インターネットモニター調査)を実施し、初期キャリアに対して有効な大学の学習経験は何かという問いを検討した。大学時代の学習経験に関する質問項目と仕事のパフォーマンス(能力・業績、経験学習等)の相関関係を定量的に分析した。その結果、いくつかの学習経験は仕事のパフォーマンスに対して一定程度の正の影響をもたらしていることを明らかにした。 以上の研究を経て、社会科学分野の大学教育の学習経験は就職活動・初期キャリアに対して部分的に転移するという可能性が示唆された。しかし、その程度は必ずしも高いとはいえなかった。こうした知見は、社会科学分野の大学教育の内容・方法には依然として課題が残されているということも示唆している。
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