本研究の目的は、欧州評議会のシティズンシップ教育・人権教育(以下、EDC/HRE)の事例分析を通して、多様性尊重と社会統合のためのグローバル時代のシティズンシップ教育カリキュラムの開発を行うことである。研究全体の成果として、三点ある。 第一に、EDC/HREの小・中・高の教授用指導書、およびCLEARプロジェクトと呼ばれる概念学習のカリキュラム・授業原理を示した。EDC/HREの理論的支柱の1人であるロンドン大学のHugh Starkey氏を奈良教育大学に招へいし、講演会を実施するとともに意見交流を行った。特徴として「構築」「脱構築」「再構築」というカリキュラムの軸と、多様な解釈に開かれた形で中心概念を教える社会構成主義的な教授学習過程を指摘した。 第二に、日本の中学校における3年間のうち1年目のシティズンシップ教育のカリキュラム開発に、中学校の社会科担当の教諭と共同で取り組んだ。EDC/HREの特徴である多元的アイデンティティの育成について、生徒たちが、地域、国家、グローバルのレベルの問題に向き合っている多様な人と出会い、自らの認識の「ボーダー(境界)」を考察するカリキュラムを開発した。この実践について、大学の教職科目「カリキュラム論」の中で報告し、教員養成との関連も持たせた。この実践については、ノルウェーの大学の北山夕華氏、Audrey Osler氏らと共同で論文執筆を行った。 第三に、シティズンシップ教育を実践していく上での教師の意識や関わりをどのように支援するのかについて、欧州評議会の教師教育を担うセンターを訪問し調査を行った。さらに、日本とノルウェーの教員養成大学の学生の意識や、大学において人権の特殊性と人権教育をどのように扱うかといった部分についても、シティズンシップ教育を実施する上で重要だと考え情報を収集した。その一部は教師教育の学会にて報告を行った。
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