研究課題
若手研究(B)
本研究では、量子ホール系エッジ状態において一次元コヒーレント伝導を担う電子スピンを、ゲート電極による軌道制御とスピン軌道相互作用を組み合わせることで任意にユニタリ操作する手法を開拓する。これにより、一般的な電子スピン共鳴によるスピンのコヒーレント制御のようにマイクロ波バースト等の複雑な操作を使わずに、スピンに対するゲート回路を半導体デバイス上に作り込むことによって、電子スピン版量子光学とも呼ぶべきコヒーレントな電子スピンデバイスを実現することを目指している。本年度は、特にエッジ状態の電子軌道を制御することでスピン軌道相互作用による有効的な振動磁場をデバイス中に作り出し、それによって電子スピン共鳴を起こすことでスピンを制御する研究に取り組んだ。このためにはスピン共鳴が起こる条件を満たすようなゲート電極構造を設計する必要があるので、GaAs基板の諸パラメータに基づいて最適なゲート電極構造を理論的なモデルから決定するための解析を行い、実際のデバイス構造を作製した。これと並行して、本研究に必要な測定系および実験室の整備を行った。すなわち、実験室におけるヘリウム、電力等のユーティリティーや工具、測定ラックの整備に続いて、実験に使用する希釈冷凍機と各種測定用エレクトロニクスのセットアップや試料作成のための電子線ビームリソグラフィー装置の立ち上げ等を行った。その上で、これら装置を用いて量子ドット・量子ホールバー等の標準的な試料を測定し、ノイズの評価等を通じて実験に必要な性能が得られることを確認した。
3: やや遅れている
本年度より所属が変わり全く新規の研究室を立ち上げることとなったため、実験環境や装置の整備・調整に大きく時間を割く必要があった。しかし作業自体は順調に進んでおり、量子ドットや量子ホール素子等の試料を実際に測定し、研究に必要な諸要素の点検を終えている。したがって、これから実験を開始する試料の測定においては、計画通りスムーズに進められる。
セットアップの完了した実験系で試料を冷却し測定を開始する。まず試料に強磁場を印加し量子ホール効果の特性を確認し、ゲート電圧を調整することで実験に必要なエッジ状態のスピン偏極を得る。電子密度(ゲート電圧)および磁場を調整し、作製した試料ゲート周期構造と一致する共鳴条件を探し出し、共鳴条件下で実効的な電子スピン共鳴が起こりスピン偏極率が大きく変化することを電流測定により検出する。最適な共鳴条件を見出すためには電子密度やゲート周期構造の異なる複数の試料を測定する必要がある可能性があるため、並行して新しい試料の作製も進める。
購入を予定していたGaAsへテロ接合ウェハーについて、供給者結晶成長を行うためのMBEマシーンタイムを確保できなかったため、年度内の購入を見送ることとなった。そのため、本年度は別のGaAsウェハーを使用することで研究を進めた。本年度作製した試料の特性評価結果に基づき、新しく結晶成長を行うGaAsウェハーの結晶構造を決定し、これに基づいて本年度購入を見送った結晶の購入を進める。それ以外は当初計画通りの使用を進める予定である。
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