研究課題/領域番号 |
25790006
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中島 峻 独立行政法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (60534344)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴 / 核スピン / デコヒーレンス |
研究実績の概要 |
本研究では、量子ホール系エッジ状態において一次元コヒーレント伝導を担う電子スピンを、ゲート電極による軌道制御とスピン軌道相互作用を組み合わせることで操作する手法を開拓する。これによりスピンに対するゲート回路を半導体デバイス上に作り込むことによって、一般的なマイクロ波バーストを使った電子スピン共鳴と比較して容易な制御により、電子スピン版量子光学とも呼ぶべきコヒーレントな電子スピンデバイスを実現することを目指している。 本年度は、昨年度に作製したデバイスおよび構築を終えた実験セットアップを使って実験を開始した。まず、多重量子ドット構造のデバイスにおいて、従来のマイクロ波バーストを使った方法による電子スピン共鳴を用いて、電子スピンのコヒーレント制御を行う際に生じる問題点と解決策について、実験的に評価を行った。この結果、電子スピンのコヒーレント制御を行う際には核スピンの影響を適切に制御することが重要であることが判明し、電子スピンの測定および電圧制御の時間スケールを最適化することで、電子スピンのコヒーレンスが劇的に改善することを見出した。 次に、この知見に基づいて量子ホールデバイスにおける軌道制御の実験を開始した。量子ドットデバイスの場合と同様に、ここでも電子スピンに対する核スピンの影響、特に動的核偏極が重大な影響を及ぼすことを確認した。量子ドットデバイスの場合と同様、核スピンの影響を適切に制御するには測定の時間スケールを高速化することが極めて重要であり、これを実現するために量子ホール系における高周波反射波測定法を開発した。この測定手法を用いることで、電子スピンの軌道制御実験を継続する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電子スピンに対する核スピンの影響は従来から広く研究されており、本計画ではそれを踏まえた上で電子スピンに対するスピン軌道相互作用の解明・制御に重点を置いて進めることを予定していた。しかしながら、実験を進めていく過程で核スピンの影響が従来考えられていた以上に重要であり豊富な情報を含むことが明らかとなったため、その解明および制御方法の確立について取り組む必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画で想定していた以上に、核スピンの効果が重要であり豊富な物理を含むことが明らかとなった。スピン軌道相互作用を利用した研究を進める上で、核スピンの影響は単に障害となるばかりではなく、それ自体が研究の対象として極めて興味深い。そこで、この核スピンの影響の解明について引き続き取り組み、その制御方法を確立する予定である。 一方で、この核スピンの影響を抑えながらスピン軌道相互作用を制御する方法についても目処が立ったので、今後はそのために必要な試料を作製し直し、並行して推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は試料作製に必要なGaAsヘテロ接合ウェハーの購入を予定していたが、前年度に作製した試料での実験が計画よりも長く続いたため、本年度中の必要がなくなった。GaAsウェハーの結晶品質は結晶成長装置のメンテナンスサイクルによって変動し、次年度での成長の方が良い品質が見込まれたため、本年度中の購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は新しい試料作製のためGaAsウェハーが必要となるため、購入を進める。また、それ以外は当初計画通りの使用を進める予定である。
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