本研究の目的は、電子状態シミュレーション手法によって、物質内部に電場を有する「強誘電体」と他の物質(酸化物、グラフェン等)とのナノ界面(接合部付近のナノメートル領域)の二次元電子系において、巨大ラシュバ効果(電場によって誘起される、スピン軌道相互作用)を示す物質群を探索し、そのフェルミ面によって誘起されるスピン流の起源を明らかにすることであった。 これらの目的に沿って研究を進め、まず、バルク系について調べ、ウルツ鉱型結晶構造の極性半導体であるZnOの歪みによって電気分極が変化することに注目した。この効果によって、電子ドープを想定した、ZnO系では伝導帯のRashba係数の符号が反転することを明らかにした。これはウルツ鉱型結晶構造において、ZnとOが四面体配位になっており、歪みによって分極が反転したことによることが、点電荷モデルならびにベリー位相法の電気分極計算によって明らかになった。次に、ZnOの電気分極が面内である(10-10)面が表面となる薄膜の電子状態ならびに、運動量空間のスピン構造について調べた。これらから、ZnOの(10-10)表面にホールドープした系では、ラシュバ効果と異なり、スピンの緩和時間が長時間になる、永久スピン旋回状態(Persistent spin helix state)を示すスピン構造となっていることが明らかになった。また、LaAlO3/SrTiO3の人工超格子において、同様に界面の二次元電子ガス状態のRashba効果について、電気分極依存性を明らかにした。以上のことから、バルク、薄膜、界面において、界面の電気分極でラシュバ効果を制御する、設計する指針が得られた。今後の研究の展開としては、スピン流-電流変換の実験で見積もられているラシュバ係数との対応など、具体的な系について実験との比較をすすめ、これらの設計指針の有効性を確かめる必要がある。
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