研究実績の概要 |
次世代デバイスとしての可能性を秘めた分子型量子ドットセルオートマトン(MQCA)論理回路に注目し、その動作シミュレーションを行った。我々は、電子移動現象(信号伝達速度、信号強度)の計算方法と解析方法をすでに提案している。平成25, 26年度においては、この方法を、混合原子価を取り得るルテニウムと鉄を含む錯体に適用した。 架橋配位子の異なる2種類の四角型4核ルテニウム錯体の周辺に、3つの論理回路(多数決・AND・OR)に対応させた全16パターンの入力電荷を配置し、電荷を変化させたときのMQCAデバイスの動作を確認した。その結果、両方の錯体において、10パターンでは論理回路として理想的に動作した。電子移動現象の解析の結果、信号伝達はフロンティア軌道近辺の多くの軌道を経由して起こるが、菱型に近い錯体では信号伝達が起こりにくいことが分かった。このことは、錯体の対称性が、信号強度の増大に非常に重要であることを示唆している。 また、交差型の4核フェロセン錯体について同様の計算を行ったところ、やはり10パターンで論理回路として理想的に動作した。このことから、四角型と交差型では顕著な差が現れないことが明らかになった。 これらと並行して、ビフェロセニウムモノマーおよびダイマーにおける信号伝達挙動を解析し、そのMQCAとしての利用可能性を検討している。今後は、ビフェロセニウムを用いたMQCA回路を構築し、その実現可能性を模索していく。 以上の研究結果について、5件の国内外学会発表と2報の論文発表を行った。
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