本研究は、光の波長の1/4程度の膜厚を有する多層膜フォトニック粒子の作製を目標としている。本年度は、(1)原子層堆積法(ALD法)による多層膜シェル形成技術の確立、(2)多層膜シェルによるアップコンバージョン蛍光体の発光効率改善、を目的として開発を行った。それぞれの進捗は以下の通りである。 (1)反応温度、反応時間、サイクル数をパラメータとして、シリカシェル、チタニアシェルの膜厚を系統的に調べた。反応温度が150度以上になるとチタニア膜は多結晶となり、膜厚の均一なシェルを形成するのが難しいことを明らかにした。また、シリカ膜は結晶化しにくい一方、反応速度がチタニアよりも遅いため、所望の膜厚を現実的な反応時間で得るためには、反応温度が400度以上である必要があることがわかった。 (2)アップコンバージョン材料は長波長の光を短波長の光に変換する発光材料であり、バイオイメージングや太陽電池等への応用が期待されている。しかし、量子効率が低いという課題がある。本年度は、アップコンバージョンナノ粒子の周りに多層膜シェルをコーティングすることにより光の状態密度を制御することにより、量子効率の改善を目指した。具体的には、アップコンバージョン材料として最も一般的な、ErとYbを共添加したNaYF4ナノ粒子を作製し、その周りに光の波長の1/4程度の膜厚を有するシリカシェル、チタニアシェルをALD法によって形成した。顕微分光法により、単一粒子の散乱スペクトルが、理論計算と一致することを確認した。また、顕微分光法によって、単一粒子の発光強度を評価したところ、シリカシェル、チタニアシェルを形成することにより、平均で4倍程度の発光増強を得られることを明らかにした。層数増加により、今後さらなる発光増強を期待できる。
|