研究実績の概要 |
平成27年度は、分子内電荷移動特性を分子デバイスへ応用するため、新たな原子価互変異性金属錯体の開発を行った。フェロセンとカテコールを共有結合で連結することで、配位子自身が2つの電子状態をとれる新たな非イノセント配位子を合成した。この配位子を用いた白金ジイミン錯体を開発し、1電子酸化体の電荷分布およびフェロセン-白金カテコレート錯体間の電子的相互作用を分光測定およびDFT計算により明らかにした。フェロセンと白金カテコレート錯体は酸化電位が近いにも関わらず、正電荷はフェロセン部位に大きく分布していた。有機金属錯体のd軌道とカテコレート部位のπ軌道で、正電荷の収容能力に差があることを見出した。 また、前年度に開発したビルディングブロックの1’,1’’’-ビフェロセンジボロン酸を用いて、混合原子価状態での組織化法の検討および得られた組織体の構造評価を行った。1’,1’’’-ビフェロセンジボロン酸をヨウ素で化学酸化し、単結晶を作製した。この結晶中において、ビフェロセニウムはB(OH)2基の水素結合によって1次元鎖を形成し、溶媒分子が側方からの水素結合でキャップしていた。+1の正電荷は2つのフェロセニル基に非局在化していた。一方、このビルディングブロックをエステル化し、ゆっくりと加水分解を行いながら、化学酸化を行い、単結晶の作製を行った。この結晶中において、2分子のビフェロセニウムが向かい合って水素結合を形成した二量体が得られ、+1の正電荷は片方のフェロセニル基に局在化していた。このように水素結合の組織化様式の異なる2つの単結晶を作り分け、原子価の捕捉状態が異なることを見出した。
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