本研究では、優れた電気伝導特性が期待されている多層グラフェンナノリボン(GNR)形成技術の開拓を目指す。この目標達成に向けてH25年度では、気相化学成長(CVD)法を利用して、二層カーボンナノチューブ(CNT)を成長核としたグラフェン層成長によるGNRの多層化形成に成功した。H26年度では、形成したグラフェン層の構造解析と電気伝導特性解析を実施した。グラフェンの層構造解析では、ラマン分光測定および走査型原子間力顕微鏡により成長前後の同一GNRを観察した。グラフェン層構造を反映した2Dバンド領域(~2700 cm-1)のピークプロファイル解析から、GNR上に形成したグラフェン層は層間相互作用の弱い乱層構造を形成していることを明らかにした。乱層構造を形成した多層グラフェンの伝導機構は、単層グラフェンの電子構造を維持しながら多層化されているため、高いオン電流の実現が理論的に指摘されており、乱層構造を有する多層GNRは優れたチャネル材料として期待できる。そこで成長後の多層GNRと比較のため成長前のGNRをチャネルとした電界効果型トランジスタ(FET)を作製し、電気伝導評価を実施した。成長前のGNRでは、ION(オン電流値) = 100 nA、ION/IOFF(オン・オフ比)= 3.0×104が観察されており、これまで報告されているGNRの電気特性と同様に優れたION/IOFFを有している。一方、CVD成長により多層化したGNR-FETでは、ION = 600 nA、ION/IOFF = 0.6×104が観察された。IONの増加は新たに形成したグラフェン層が伝導チャネルとして寄与していることを示している。以上の結果は、優れた電気伝導特性を有することが理論的に予測されていた多層GNRの物性を初めて実験的に明らかにした重要な成果である。
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