研究課題
若手研究(B)
本研究では, 微細加工技術およびマイクロ流体技術を駆使し,血管細胞と神経細胞の共培養を可能にするマイクロデバイスを開発することにより,血管―神経の基礎機能ユニットを生体外で再現し,さらに,リアルタイム顕微鏡観察および刺激的細胞応答解析により細胞挙動(細胞運動)と細胞間コミュニケーションを研究し,それらによって生み出される血管―神経の機能的依存性のメカニズムを明らかにすることが目的である.本年度は,共培養システムの構築に向け,細胞間インタラクションを妨げない細胞間インターフェースを検討した.厚みが2μmと十分薄く,メッシュ幅が5μmと細胞1個よりも細く,さらにメッシュサイズが細胞1個よりも100倍以上大きいことが特徴とする薄膜メッシュシートを微細加工により作製し,細胞培養支持体として用いた.細胞培養に際し,微細構造メッシュシートを培養液中に浮かせて設置し,その上で上皮系の細胞を培養すると層状の細胞シートを作製できることが分かった.さらに,メッシュのサイズや形状を適当に設計することにより,細胞の配向性も制御できる.この方法の特徴は,メッシュシート上でできた層状の細胞シートを重層化しても,それぞれの層の細胞がコンタクト状態にあるため,細胞間相互作用を簡単に調べることができる.また,ディッシュ底面から浮かせた状態で細胞培養を行うため,死細胞や状態の悪くなった細胞は細胞間接着を維持できないため,ディッシュ底面に脱落するので,メッシュシート上の細胞は常に状態の良い細胞である.現在,上皮系の培養細胞であるTIG120やマウス胚性線維芽細胞の細胞シートの作製に成功している.また,実験的にTIG細胞の細胞シートの上にES細胞を培養してみたところ,TIG細胞のシートが壊れることなく,ES細胞の層状なコロニーが形成されたので,層間相互作用の存在を確認できた.
2: おおむね順調に進展している
上記の通り,細胞間インタラクションを可能にする細胞間インタフェースの検討において,微細構造メッシュシートを細胞支持体とした新たな細胞培養方法を開発し,さらに上皮系細胞を用いて安定な細胞シートを作製できることを発見した.科学的な観点からみても,細胞間インタラクションを妨げない細胞間インタフェースの重要性が高く,本研究で開発したメッシュシートが今後の共培養システムに広く応用される可能性が高い.宙吊りに設置したメッシュシートを用いて細胞培養を行う,または細胞シートを作製するという研究例は他になく,本研究は新規性の高い成果を出していると自負できる.成果物として,特許出願が1件,論文(査読あり,proceedingsを含む)が4報,学会発表が6件(その内招待講演が1件)と顕著な業績であり,一年目にしては順調な進み具合と言える.しかし,神経細胞と血管細胞を使った共培養システムの構築にまだ着手していない点をマイナス評価できるが,この課題に対しては次年度に取り組む予定である.
今年度は,血管―神経の基礎機能ユニットの生体外での再現に向け,血管細胞と神経細胞の共培養システムを構築し,細胞間インタラクションを研究する予定である.課題として予想しているのは,神経細胞の培養が難しい点であるが,アストロサイト細胞を試すなりiPS細胞より神経細胞の分化を誘導するなりして,多方面的にこの課題に取り組んでいく予定である.また,本研究で新たに開発したメッシュシートを支持体とした細胞培養方法を,ES細胞やiPS細胞の培養に適用したところ,iPS細胞の分化制御の可能性があることが分かり,今後この可能性についても可能な限り探求する予定である.もしこの方向でさらに科学的な重要性の高い成果が出れば,この方向に研究計画を変更することとなる.
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
J.Inst.Electrostat.Jpn
巻: Vol.38,No.1 ページ: p.40-45
巻: Vol.38,No.1 ページ: p.28-33
,Proc. 17th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences
巻: MicroTAS 2013 ページ: 113-115
巻: MicroTAS 2013 ページ: 1057-1059
http://www.washizu.t.u-tokyo.ac.jp/link.html