電子の相変化現象を利用した革新的デバイスの創出を目指し、鉄酸化物の電子状態を電界で制御する技術の確立に挑む。前年度は、層状鉄酸化物RFe2O4(Rは希土類イオン)の電荷秩序絶縁体状態における電界誘起電流スイッチング効果の観測およびスピネル型ZnxFe3-xO4電気二重層トランジスタの開発に成功した。プロジェクト最終年度である本年度は、これらの成果をベースに下記2つの課題を実施した。 1.RFe2O4電気二重層トランジスタ パルスレーザ堆積法によりYSZ(111)基板上に作製したLuFe2O4薄膜は、結晶方位が膜面内で回転したドメインを含んでいた。基板との格子不整合がより小さいRFe2O4を探索的に合成し、YbFe2O4において回転ドメインのないエピタキシャル薄膜が得られることを明らかにした。LuFe2O4と同様にYbFe2O4も電流スイッチング効果を示したことから、電流スイッチング効果は本材料系の電荷秩序状態に共通の性質であることが示唆された。イオン液体をゲート誘電体とした電気二重層トランジスタ構造において、静電キャリア注入に由来するチャネル伝導の変化を誘起することに成功した。しかしながら、伝導度変調は数%に留まり、電荷秩序状態の融解は認められなかった。空間不均一な電子相分離の形で誘起されている可能性を検討し、サブミクロン素子作製に向けた予備実験を行った。 2.ZnxFe3-xO4電気二重層トランジスタ 前年度は、x=0.5の素子において、ゲート電圧の印加により不揮発性の伝導変化が生じることを見出し、その起源として薄膜表面での酸素組成変化を提案した。本年度は、不揮発性の伝導変化および静電キャリア注入由来の揮発性の伝導変化のZn組成x依存性を調べ、両成分が異なる組成依存性を示すことを明らかにした。
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