多彩な物性を示す遷移金属酸化物の応用に向けて、電場・磁場・光・圧力などの外的刺激による電子相制御が重要となってきている。しかしながら、不揮発性と可逆動作を伴う相制御の研究は初期段階にあり、その理解は未だ不十分である。本研究では、遷移金属酸化物の不揮発かつ可逆的な電子相制御の確立を目的としている。この目標達成のために一次相転移物質を使用する。これは、構造変化を伴うことで基底状態と遷移状態の双安定化が達成されるためである。当該年度では、電界による一次相転移の制御技術の確立とその原理解明に主眼を置き、以下の項目について主に研究を行った。 1. フッ化マグネシウム基板上の二酸化バナジウム薄膜を用いた電気二重層トランジスタ構造を作製し、ゲート電圧印加により二酸化バナジウム層の抵抗率を大幅に変調させることに成功した。この現象は、二酸化バナジウムの一次相転移によるものであり、不揮発かつ可逆的な変化であることを確認した。さらに、相転移前後の組成分析により、電界による相転移の原因が二酸化バナジウム中への水素イオンの移動であることを明らかにした。 2. 電子相転移制御技術の電子・光デバイスへの応用を目指して、Si基板上に二酸化バナジウム薄膜を作製することを試みた。成長中の温度・酸素分圧を制御することで、転移温度において大きな屈折率変化を示す二酸化バナジウム薄膜を堆積させることに成功した。相転移前後の屈折率は、エピタキシャル薄膜のそれと同等であることを確認した。具体的なデバイス応用に向けて、シリコン導波路をベースとする光スイッチの開発に取り組んだ。
|